「消滅危機言語」を保存伝承へ 沖永良部方言で音楽劇「ヒーヌムンの生まれた海」


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創作方言ミュージカル「ヒーヌムンの生まれた海」=2月23日、鹿児島県知名町のおきえらぶ文化ホールあしびの郷・ちな

 【沖永良部】ユネスコが「消滅危機言語」として発表した沖永良部島の方言を保存伝承することを目的に、2年前から準備が進められてきた創作方言ミュージカル「ヒーヌムンの生まれた海」(知名町教育委員会主催)がこのほど完成した。2月23日、知名町のおきえらぶ文化ホールあしびの郷・ちなで上演され、昼夜2回公演で合わせて435人の観客が訪れた。

 登場人物のせりふはほぼ沖永良部島方言で、舞台横には標準語の字幕が表示された。出演者のほとんどが方言も演技も初挑戦だったが、来場者からは「方言がとても流ちょうで、物語に引き込まれた」という声が聞かれた。

 物語の舞台は太平洋戦争の末期から日本復帰(1953年12月25日)前後の沖永良部島。少年マサが、負傷した米兵トムを助けたことをきっかけに、さまざまな出来事に巻き込まれ、出会いや別れを通して成長していく姿を描いた。「ヒーヌムン」とは島に伝わるガジュマルの木にすむ精霊のことで、マサは「ヒーヌムンがいる」とうそをついて大きなガジュマルの木にトムをかくまった。

 同ミュージカルは、総勢約40人の出演者はもちろん、原作、方言訳、音楽や振り付け、舞台美術まで、ほとんどを町民の手で創り上げた。唯一、島外からこのプロジェクトに参加した劇作家の金田一央紀さんも約8カ月間、町内に住居を移し、創作と演技指導にあたった。「真剣に遊ぶ場としての演劇を追求してきた。キャスティングや方言での台詞回しに苦労はしたが、キャスト・スタッフ全員でいいものを創り上げることができた。また上演の機会があるとうれしい」と語った。

 原作者の神川こづえさんは「終演後の控室で、みんなで抱き合って泣いた。一つの物事に多くの人が関わり絆を深めた感動は大きい」と話した。
 (宮澤夕加里通信員)