観光業界から出向拡大 コロナ下の雇用維持 人手不足業界への利点も


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出向先のあんしんのオリエンテーションに参加するてぃーだ観光の運転手ら=1日、那覇市港町のトラック協会

 新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、観光業を中心に雇用の維持が課題となっている。新年度の始まりを機に、社員を在籍させながら、他の企業や行政機関の臨時職員として出向させる取り組みが広がっている。人材の受け入れに手を挙げる企業にとっては、接客ノウハウなどの習得や人手不足の解消につながるなどメリットがある。

 貸し切り観光バスのてぃーだ観光(糸満市)は1日から、物流のあんしん(浦添市)に運転手11人を出向させた。契約期間は半年で、状況次第で契約を更新する。出向する運転手らは大型2種免許を持っているため、あんしんで扱う貨物運送の中型車両を運転することができる。

 てぃーだ観光運転手の宮城秀礼さん(33)は「この1年間はほぼ休業状態で不安で仕方なかったが、やっと今から働けるという気持ちになっている」と気持ちを新たにした。

 てぃーだ観光は、修学旅行や企業の報奨旅行など団体旅行をメインの客層とし、8人のバスガイドと18人の運転手が在籍する。新型コロナの影響で団体旅行のキャンセルが相次ぎ、2020年の売り上げは前年の87%減となった。21年度も上半期に受け入れ予定だった修学旅行の方面変更などキャンセルが出始め、見通しは厳しい。

 これまで従業員を計画休業させ、国の雇用調整助成金で給与を補ってきた。バスの台数を18台から9台に減らすなど事業も縮小し、会社を維持している。今後、雇用調整助成金の特例措置がいつまで続くか分からないという懸念もあり、雇用維持の方策として在籍型出向の模索を始めた。

 てぃーだ観光の谷口修身代表取締役最高執行責任者(COO)は「解雇は絶対しないのが会社の方針だ。雇用の維持だけでなく、社員の生活水準も守らないといけない」と話す。

 慢性的な運転手不足に悩まされてきたトラック業界の中で、受け入れ先のあんしんにとっても利点がある。コロナ前までは、貨物運送の運転手が観光貸し切りバスに転職してしまうケースも多く、人手不足に拍車がかかっていた。

 あんしん管理本部の高嶺邦彦管理部長は「本年度の新入社員が研修を受けて独り立ちするまでの間、業務を担ってもらう。我々にとってもメリットが大きい」と話した。

 県も、新型コロナで影響を受ける企業から、臨時職員として人材の受け入れを予定しているほか、企業同士の人材交流を取り持つマッチング事業を実施している。現時点で観光やサービス業などから8社が人材の送り出しを希望しており、小売業や医療業界など58社が受け入れ先として手を上げている。

 在籍型出向に要した賃金や経費の一部を国が助成する「産業雇用安定助成金」もあり、県は制度を活用した雇用の維持を呼び掛けている。