<書評>『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』 日本側に問題意識の欠如


社会
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『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』松竹伸幸著 集英社・968円

 本書は日米地位協定の性格を新たな視座から分析・解説した本である。地位協定は1960年の安保条約締結時に、旧安保条約下の「日米行政協定(行政協)」が改定されて誕生した。同改定交渉時に日本側が米国に提示した文書「行政協定改定問題点」を視座にして、当時の日本側の問題意識とその限界を解明し、地位協定の中に日本側要求のどの点が受け入れられ、どの点が拒否されたかを、本書は浮き彫りにしている。この視座こそ本書の最大の特徴である。

 「行政協定改定問題点」は長い間、秘密文書とされ、2010年にやっと公開された文書である。本書を読むと、同文書が地位協定の基本的性格を明らかにする上でいかに重要かが分かる。この視座から地位協定の全条文を分析したのは本書が初めてではないかと思う。改定交渉時の日本側の問題意識がいかに不十分で、国家主権の最も中核たるべき責務、領土保全及び国民の人権保障という責務感が欠如していたかが分かる。そして、当時のわが国をとりまく安全保障環境と日米両国の力関係が大きく影響を与えていたことを実感する。

 米軍への基地提供が地位協定上両国の合意により決められることとされていたものの、実態は「岡崎・ラスク交換文書」で日本の手足が縛られていたこと、「軍属」の定め方にNATO地位協定と比べて重大な差異があったこと、米軍の基地管理権が行政協定当時のまま存置されたことなど、行政協定時代の基本構造が温存・引き継がれた状況が分かりやすく解説されている。

 爆音訴訟担当弁護士の立場で言うと、1960年の合意議事録の中で、米軍飛行場の飛行場管制権、進入管制権が引き続き米軍に認められていたことが目を引く。また、沖縄が日本復帰した70年代に地位協定の解釈が米国寄りに変更されてきたのではないかとの筆者の指摘は重要で今後さらに追及されるべき課題だと感じた。筆者が、国民の運動次第では地位協定の実質的内容を変え得ると指摘している点も共感を覚える。

 (新垣勉・元沖縄弁護士会会長)


 まつたけ・のぶゆき 1955年長崎県生まれ。ジャーナリスト、編集者、日本平和学会会員、自衛隊を活かす会事務局長。著書に「9条が世界を変える」「『日本会議』史観の乗り越え方」「対米従属の謎」など。