<書評>『沖縄経済と業界発展』 「沖縄のしくみ」を概説


社会
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『沖縄経済と業界発展』大城肇、與那原建、山内昌斗、大城淳著 1950倶楽部編 光文堂コミュニケーションズ・1600円

 沖縄の「経済社会のしくみ」を俯瞰(ふかん)し、概説する見事な一冊である。まさに温故知新の極み。沖縄経済の過去、現在、そして未来までを展望する基本中の基本書を送り出してくれた著者たちに感謝したい。

 「沖縄はなぜ貧しいのか」。冒頭から沖縄社会・経済が抱え続ける根幹課題を突く問いと答えから本書は始まる。歴史と経験は解決のヒントを常に示唆してくれる。

 日本史と琉球史を重ねながら琉球王国時代から薩摩の琉球入り、琉球処分、沖縄戦、米軍統治、日本復帰、沖縄振興、アジア経済戦略までの500年余の琉球沖縄史を、経済を縦軸にドラマチックに語り上げている。

 2章の「沖縄産業発展のあゆみ」は圧巻だ。沖縄経済を担う主役たちがどのように生まれ、成長・発展、あるいは衰退・消滅、復興・再興を果たしてきたか。銀行、保険、建設、製造、印刷、製糖、観光、物流など産業史を漏れなく概説している。

 そして3章。県経済にとって不可欠な「自立型経済への挑戦」について大城肇・前琉大学長が渾身(こんしん)の筆を振るう。キーワードは「IIPSアイランド・オキナワ」。復帰後50年かけて目標を達成できない政府主導の沖縄振興(開発)計画に代わる、「沖縄創生基本法(仮称)」の制定による沖縄型イノベーション「プロジェクトK」への挑戦を提起している。評者が掲げる「新10K経済」を二つ上回る12の産業クラスター成長戦略である。

 仕上げの4章は第4次産業革命とデジタル時代の沖縄の発展戦略だ。既存事業の深堀と新規事業の探索という、持続的・破壊的イノベーションの「両利き戦略」で沖縄経済人に奮起を促す。

 時々、教科書的な硬さが顔を出すが、随所にちりばめられた「コラム」も含め、読み手を飽きさせない、キレのいい文体がページをめくる手を急がせる。この1冊で琉球・沖縄経済と産業史の基本を復習・再考できる。県民必読の教科書はコストパフォーマンスも「秀」である。

(前泊博盛・沖縄国際大教授)


 1950倶楽部 1950年に創業した県内11企業で構成。2015年に活動を開始し、共同で社会貢献に取り組み、活動の集大成として本書を企画・編集した。著者は大城肇琉球大名誉教授、與那原建琉球大教授、山内昌斗専修大教授、大城淳沖縄大准教授。