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<書評>『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』 沖縄へ残した言葉、重く

『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』塩谷隆英著 商事法務・3960円

 本書は開発天皇と呼ばれた知的巨人、下河辺淳についての渾身(こんしん)の評伝である。

 著者は下河辺の薫陶を受けながら経済企画事務次官を務め上げた。したがって、下河辺が関わった第一次から第五次までの全国総合開発計画(全総)をはじめ首都機能移転構想、総合研究開発機構(NIRA)の展開、阪神淡路復興計画などの考察と分析は簡潔で分かりやすく、開発行政学の教材としても貴重な内容となっている。

 下河辺は戦災復興院、建設省、経済審議庁、経済企画庁、国土庁と、常にわが国の国土開発行政の最前線にあり、100年先を見据えてこの国の設計をし続け、建築科出身として初の国土事務次官になった。

 五全総にあたる「21世紀の国土のグランドデザイン」は、東京一極集中から多軸型の国土構造へ転換し、地域分権の受け皿とする構想だった。だが、プランナーの宿命でやり残した仕事も多かった。本書には21世紀の日本に対する下河辺の提言が示されていて「世界の中で日本の立ち位置を明確にすべき」「経済大国から生活大国へ」「大災害対策のためにも重都が急務である」「21世紀は小都市文明の時代になる」など、コロナ後の世界を示唆した提言が多い。

 実は、下河辺は沖縄とゆかりが深かった。米軍統治下の屋良主席時代から沖縄振興計画に関わり、特に米兵による少女暴行事件をきっかけに県民の怒りが爆発して大田県政と橋本政権が厳しく対立したときは、両者を仲介して和解させた。

 だが、そうした努力にもかかわらず普天間の代替施設が辺野古の巨大な新基地建設になることは彼を失望させた。下河辺の沖縄関係文書は県公文書館に保管されている。

 沖縄についての信念を下河辺は次のように語っている。「沖縄は平和の象徴にしなければならない。本当はそういう理想を追わなければいけない。軍事的な基地よりも平和の象徴にすべきだ」。この先達(せんだつ)の言葉を、沖縄に対処する政治家や官僚たちがどう受け止めるか問われている。

 (江上能義・琉球大名誉教授)


 しおや・たかふさ 1941年神奈川県鎌倉市生まれ。経済企画庁に入庁し、1998年に経済企画事務次官に。著書に「経済再生の条件」「甦れ!経済再生の最強戦略本部」など。



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