日米首脳会談 同盟堅持も中国にも配慮<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 米国を公式訪問した菅義偉首相がワシントンで16日(日本時間17日)、ジョセフ・バイデン大統領と会談した。同日発表された共同声明では、沖縄に関連し、<日米両国は、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である、辺野古における普天間飛行場代替施設の建設>と明記された。予想されたこととは言え、沖縄の民意に日米両国政府が応える意思がないことが再確認された。

 <沖縄の民意が繰り返し無視される状況で、民主主義とは何かを両首脳に問いたい。そして日米が共通の価値観とする「民主主義」を沖縄にも適用してもらいたい>(19日本紙社説)と筆者も考える。

 今回の日米首脳会談では中国との関係での調整で手一杯で、沖縄が抱える問題について検討する余裕が全くなく先例を踏襲したというのが実態と思う。共同声明では、国際秩序を一方的に変更しようとする中国を牽制する以下の内容が含まれた。

 <日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した>。

 この共同声明に中国の政府も有識者も激しく反発している。しかし、実態を見るならば、日本が米国に働きかけ、中国に対する配慮も十分加えられた内容になっている。

 細かいことのように見えるが、共同声明は「台湾の平和と安定」では「台湾海峡の平和と安定」と述べている。海峡の安全を保障することは、中国も参加している国連海洋法条約に合致している。さらに日本政府が常に強調している「両岸問題の平和的解決を促す」も明記されている。中国に付け込まれる隙を与えないように日本は細心の注意を払っている。

 また、ウイグル人の人権問題に関しても、日本は中国に対する制裁を課さない姿勢を貫いている。日米同盟を堅持するとともに中国とも安定的関係を続けるという菅政権のプラグマティズムが反映された共同声明だ。

 ちなみに台湾問題とウイグル問題の比重に関して、日本の報道を見ると台湾の方が事態が深刻であるという受け止めになるが、これは間違いだ。

 台湾に関しては、これから中国が実効支配する領域を増やせるかという「攻め」の問題だ。これに対してウイグル問題は、ウイグル人が民族自決権を行使して中華人民共和国の版図から離脱する可能性があるという、国家分裂の危機を潜在的にはらんだ「守り」の問題だ。中国の国家体制の保全という観点からはウイグル問題の方は台湾問題よりも質的にはるかに重要で深刻な問題なのである。

 ウイグル問題で日本がG7諸国で唯一、中国に対する制裁を課していないことの意味を中国は正確に理解すべきだ。そもそも中国やミャンマーなど太平洋戦争中に日本軍が展開していた国に人権干渉するときは、歴史認識問題を誘発しやすい。菅首相はそのことを十分考慮した上で今回の日米首脳会談に臨んだと筆者は見ている。

(作家・元外務省主任分析官)