自らも闘病、吉永さんに励まされ…成島監督に聞く「いのちの停車場」


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 現役医師・南杏子の同名小説が原作の映画「いのちの停車場」(成島出監督)が21日から、全国公開される。同作は吉永小百合が主演し、初の医師役に挑戦。在宅医療専門医師・白石咲和子(吉永)が患者と向き合う姿を通して、さまざまな形の「いのちのしまい方」を描く。「安楽死」などのテーマにも切り込んだ原作を映画化した成島監督に、「ふしぎな岬の物語」(2014年)に続いて吉永と作品作りに臨んだ背景や自身の闘病体験、作品に込めた思いを聞いた。(聞き手・藤村謙吾)

インタビューに答える成島出監督=4月11日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンター劇場棟(喜瀨守昭撮影)

Q.なぜ本作品の映画化を決めたのか。

 「(脳死肝移植の問題を取り上げた映画)『孤高のメス』を吉永さんが気に入ってくれた。まだ吉永さんがドクターの役を演じたことがなかったので、ぜひそれをしましょうとなった。原作を探し、10年がかりで『いのちの停車場』に巡り合い、ようやく二人の念願の映画が作れた」

Q.自身も17年に、肺がんを患い闘病した。

 「発症したとき、吉永さんから『必ず治して、ご一緒しましょう』と励ましのお手紙と、がん封じのお寺のお守りを送っていただいた。それはどんな薬よりも効いた。吉永さんとの約束が守れて、良かったと思っている」

Q.末期の肺がん患者で、最後まで自分らしくあろうとする芸者・寺田智恵子(小池栄子)は原作にはいない。どのような人物か。

 「劇中、詳しく描いていないが(寺田は)『小細胞肺がん』という、僕が発症したものと同じ肺がん。これは非常に難治がん。僕もそのがんになったとき、体力がものすごく持っていかれる抗がん剤治療をするのか、余命が2年あるとすればなんとか映画1本作ることを目指すのかとか、何を優先すべきかすごく考えた。(寺田はがんが)見つかった時は広がってしまっていたから、最後まで芸者で、プロフェッショナルであり続けるという生き方を取った」

Q.寺田に抗がん剤治療を選ばせなかったのはなぜか。

 「たまたま僕の場合はオペができて(がんを)切ることができた。でも深作欣二監督が抗がん剤をやらなかったり、俳優さんでも声がダメになるからと喉や舌のがんを切らなかったりなどはある。がんは治療方法も進歩し、昔と違い治る可能性も高くなっている。深作さんのときとは変わってきているが、やっぱりそこ(治療をどうするか)の考え方はきっと人それぞれの命のしまい方、生き方だ。なので(寺田は)そういう思いを込めて、最期まで凜として生き切る(人物として描いた)」

吉永小百合(左から2人目)が初の医師役に挑戦した映画「いのちの停車場」の一場面=(C)2021「いのちの停車場」製作委員会

Q.「脳死肝移植」の問題に切り込んだ「孤高のメス」に続き、本作では「安楽死」の問題に切り込んでいる。

 「(本作は)安楽死を肯定する映画でもないし、否定する映画でもない。『孤高のメス』(で描いた当時の脳死肝移植の問題)と同じく、どれが正しい判断なのかどうかというのは、やはり誰にも分からない部分がある。ただ、今後、超高齢化社会になり『本当の苦しみが取れないから早くあっちへ送ってくれ』と家族に言われたら、どうしたらいいかと(思い悩む)人が増えてくると思う」

Q.ラストシーンを、吉永演じる咲和子と、咲和子の父・達郎(田中泯)が飾る。原作と異なるエンディングにどのような思いを込めたのか。

 「劇場で一緒に(命のしまい方を)考えてほしいと思った。(ラストは)すごい悩んだ。(制作)途中で新型コロナウイルス感染症が流行したことが大きかった。(家族が)コロナになって、ガラス越しにさえも会えない、手も握れない、(亡くなって)焼き場(火葬場)にも行けない、別れもできない、遺骨になって戻ってくる。それも箱(骨つぼ)を玄関の前に置かれるみたいな現実が起きてしまったときに、映画も変わらざるを得なかった。試写会で(ラストの解釈は)年齢や性別で、意見が分かれた。観客の感性に委ねたい」


~あらすじ~

 救命救急医だった白石咲和子はある事件をきっかけに金沢に帰郷し、父と暮らしながら、「まほろば診療所」で在宅医師として再出発する。

 診療所の院長・仙川徹(西田敏行)と訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)は、近隣に住む少数の患者に対し、生き方を尊重する治療を行っており、咲和子はこれまでの現場と異なる考え方に困惑する。やがて、咲和子を慕う医大卒業生・野呂聖二(松坂桃李)も加わり、咲和子はまほろばの一員として、その人らしい生き方を患者やその家族とともに考えるようになる。

 そのとき、病に倒れた父はどうすることもできない痛みに苦しみ、あることを咲和子に頼もうとしていた。


 県内では21日から、ユナイテッド・シネマPARCOCITY浦添、シネマQ、シネマライカム、ミハマ7プレックスで上映。