【深掘り】「辺野古建設反対と矛盾」塩川土砂コンベヤーなぜ県認可


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 名護市辺野古の新基地建設に使う土砂の海上運搬を巡り、土砂を船積みするためのベルトコンベヤーを本部港塩川地区に設置する業者の計画について、県は4月に続いて5月分の申請も許可した。県は法令や基準に基づいて許可せざるを得ないと判断した形だが、埋め立て工事に関わる民間事業者への申請許可が続いている。工事の違法性を訴える市民からは、県政の対応に「新基地建設反対の立場と矛盾する」など反発や疑問の声が上がる。

本部港塩川地区へのベルトコンベヤー設置について、5月分も許可したことを説明する県北部土木事務所職員ら=4月30日午後11時すぎ、県北部土木事務所

 ベルトコンベヤー設置の許可を受けた業者は塩川地区内に2基を設置し、港湾施設内に資材を仮置きして直接船積みする予定だ。土砂搬出作業の効率化が図られ、新基地建設を進めたい沖縄防衛局にとっては工事の加速につながる。

■深夜の交渉

 5月分に対する判断が迫っていた4月30日午後3時、辺野古埋め立てに反対する市民ら約40人が県北部土木事務所に詰め掛けて、業者に許可をしないよう求めた。

 本部町島ぐるみ会議などから指摘があった、敷地面積や濁水処理プラントの能力、高さ1・1メートルの大型土のうの必要性といった申請内容に関する疑問点について、県は事前に業者に問い合わせていた。

 桃原一郎県北部土木事務所長は午後8時すぎ、「本日中の決裁は難しい。(業者から)新たな申請書が出たら、決裁前に説明する努力をしたい」と状況を市民に説明。新たな申請書が業務時間内に提出されなかったため、市民にはベルトコンベヤー設置は「不許可」という見方が強まった。

 だが、午後11時すぎに事態は一転した。桃原所長が市民らの前に現れ、「是正内容に問題がなければ決裁をするようにと上から指示を受け、決裁した」と許可したことを明らかにした。

 市民から「私たちの疑問は払拭(ふっしょく)されていない」「不誠実な対応だ」などと怒号が飛んだ。市民とのやり取りは日付が変わって午前1時ごろまで続いた。

■板挟み

 県が最初に業者からベルトコンベヤー設置の申請を受けたのは2020年1月だった。それから1年以上にわたり審査を続けてきた。港湾法の枠内では、港の管理に支障が出ない限りは申請を認めることになっている。関係者によると、県は事前に県議会与党に許可の方針を伝えていた。

 法令に基づく行政の立場と、政治家の公約との間で板挟みとなる玉城デニー知事は、市民への説明についても十分に行うよう事務方に指示したという。県幹部は「(指摘のあった点は)是正を確認して許可を判断した。市民の気持ちは理解できる。これからもしっかり対話しながら進めたい」と語った。

 県は大型連休明けに市民への詳細な説明の場を改めて設ける考えだ。ただ、糸満市米須の土砂採掘計画でも、県は業者に対して採掘を禁止する中止命令は見送った。現場で抗議を続ける市民にとって、玉城県政の新基地建設阻止の本気度に疑問が募る状況となっている。

 ベルトコンベヤー設置の許可に対し、沖縄平和運動センターの山城博治議長は「新型コロナウイルス対策で抗議を中止している中、県がこの判断を下すのは一体どういうことなのか」と訴えた。

(明真南斗、松堂秀樹、喜屋武研伍)

県の対応「見直しの余地も」龍谷大・本多教授

 本部港塩川地区でのベルトコンベヤー設置を許可した県の対応について、龍谷大の本多滝夫教授(行政法)は「確かに港湾法や県港湾管理条例の条文には、使用する事業によって不許可にできる根拠はない。県はその枠内で判断したのだろう」と説明する。

 一方で、許可が重大な違法行為や公序良俗に反する行為を助長する場合には、許可を出すことが問題となる場合もある。

 本多教授は「軟弱地盤によって工事の完遂が困難な状況にあることに照らせば、従来の運用に見直しの余地もあったのではないか」と指摘した。

 その上で「許可する場合でも、新基地を認めない県の立場を明確にして、業者に辺野古工事に協力しないよう求めるなどの対応は取れるのではないか。その上で県民に丁寧に説明することが大事だ」と語った。