<書評>『キューバ★わが愛 私が見たキューバの素顔』 理不尽に挑む民衆写す


社会
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『キューバ★わが愛 私が見たキューバの素顔』兼城淳子著 榕樹書林・2970円

 著者との出会いは2006年。「信州沖縄塾」の2周年記念講演会で目取真俊さんを招き、演題「沖縄は拒否する」と講演し、米軍基地の無い長野県民に厳しい課題提起を行った。

 サブ会場では、著者による辺野古と高江の写真展「命と暮らしを守る沖縄の闘い」を開催した。同会場には沖縄2紙も掲示され、沖縄からのメッセージを届けたことから始まる。

 1959年、バチスタ政権が打倒され、アメリカの植民地支配からキューバが独立したと報ずる新聞記事を、私はハンセン患者が隔離されていた沖縄愛楽園で、食い入るように読んでいた。カストロとゲバラ、そして、沖縄抵抗運動の象徴瀬長亀次郎を重ね、胸を熱くしていた15歳の少年の私。

 本書は、革命家に魅(ひ)かれた著者が、単独行で2度目のキューバへの旅で、捉えた民衆の素顔の生活表情である。

 厳しい経済封鎖の中で耐え抜いている生活に、乗り物や生活用具等に真新しいものを見つけ出すことはできない。出会った路地裏の人々の、被写体サービスとは思えない、底抜けに明るい笑顔は、どうしてだろうか。

 各ページに溢(あふ)れる快活な表情を、決して、キューバの「国民性」と断ずるなかれ。未来を信ずる者にしか見せることができない宝物である。この笑顔は、日本国で、一番楽天的だと評される沖縄から、次第に奪い取られているのである。

 本書は、プロ写真家による出版本ではない。カリブの小国キューバに恋した一人の主婦が、自らの足でたどり、民衆との出会いで世に送り出した写真集である。

 歴史の出来事は、実体験者から聴くことで知る。だが、残念なことには、人の命には限りがある。記憶の語り継ぎは、文字、映像、音声、そして、写真などで記録される。著者のカメラが写し撮ったのは、ファインダー越しに見える、大国の理不尽に挑み続ける民衆に共感する、心の眼が捉えた一瞬である。

 (伊波敏男・作家)


 かねしろ・じゅんこ 1941年鹿児島県生まれ。46年一家で沖縄に引き揚げる。NPO法人奥間川流域保護基金理事として、奥間ダム建設中止や自然保護運動に関わる。