<シネマFOCUS>「ブータン 山の教室」 大切なもの思い出させる


この記事を書いた人 Avatar photo 慶田城 七瀬

 少女はヒマラヤの山々をその澄んだ目に映しながら、先生が来てくれるのを待っている。標高4800メートルもある秘境ルナナ村で。だがそこに派遣されたのは、教師などさっさと辞めてミュージシャンになりたいウゲン。

 1週間以上かけてたどり着いたルナナ村で待っていたのは、好奇心の塊のような子どもたちと、その子どもたちに知識を手がかりに未来を見せてやりたいと願う大人たち。子どもたちは全員が村の子どもたちだという。

 文化や伝統を守りながら質素だが心豊かに生きている。車もテレビも見たことがなく、学校もない子どもたちを幸せだというつもりはないが、子どもたちの目は常に生き生きと輝き、自然への畏怖(いふ)と生活の糧を与えてくれるヤクへの感謝を隠すことはない。

 忘れまいとしても、日常にまみれて見えなくなってしまう大切なものを思い出させてくれる。少女の笑顔と山々に響き渡るブータン民謡に訳もなく落涙。監督はバオ・チョニン・ドルジ。
 (スターシアターズ・榮慶子)