<書評>『沖縄児童文学の水脈』 沖縄児童文学に光当てる


社会
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『沖縄児童文学の水脈』齋木喜美子著 関西学院大学出版会・5060円

 著者は、本書刊行の目的を「歴史に埋没してきた作家や作品を『沖縄児童文学の水脈』として可視化しようと試みた」と述べている。先行研究の精査をもとに調査分析と本人や関係者へのインタビューを続けて、沖縄の児童文学世界に光を当てた。

 沖縄に出自を持つ作家、詩人、画家を対象にして、調査を刊行書籍に限らず、国内外の新聞や雑誌、同人誌に広げている。その視点として「子どもを対象とした」あるいは「広く子どもの目に触れたであろう」作品に着目する。その成果の一つが、アメリカのブランゲ文庫で発掘した山之口貘の新史料、児童詩「キカンシャ」である。

 調査した書き手も職業作家だけでなく、教員や行政官、米軍関係者に及ぶ。中でも、占領期に発行された米軍広報誌『守礼の光』に「琉球昔話」を89編掲載した瀬底ちずえの論考は興味深い。米軍に協力する一方で、取材で米軍の便宜を図らせた。

 瀬底のように沖縄で昔話を手がけた作家は多い。本書でも、伊波南哲、山之口貘、川平朝申、古藤実冨、儀間比呂志らの昔話が数多く紹介されている。沖縄では、口承文芸の伝統が守られ語りの世界が大切にされてきた。民謡や童謡が口ずさまれ、漢詩の朗誦が今も続いている。昔話の語りに魅力を感じる風土が多くの作品を生み出した。

 本書では、儀間の創作に多くの紙数が割かれている。これも、独特の美を生み出す琉球・沖縄の文化風土と関係がある。儀間が生活した南洋群島で受けた影響を詳述して儀間の木版画や「沖縄絵本」の「郷土性」「土着性」を指摘して、儀間の民衆へのまなざしを論じている。

 戦時下や占領期の創作について戦争責任の視点から論じているのも本書の特徴である。伊波南哲の久松五勇士を描いた「敵艦見ゆ」などを紹介する一方で、彼が戦後八重山文化協会発足に努力した事実も見逃さない。しかし、南哲は「戦中の自らの作品を批判的に乗り越えていく道を選ばなかった」と指摘し、戦中から戦後にかけてどう生きたかが問題であることを力説する。断罪や批判ではない研究の視点を提示した。

 本年度創設の第1回外間守善賞(沖縄文化協会)を受賞した。

 (武藤清吾・琉球大学名誉教授)


 さいき・きみこ 具志川市(現うるま市)生まれ。関西学院大学教育学部教授。琉球新報児童文学賞審査委員。2005年、日本児童文学者協会新人賞受賞。