<書評>『病気をして、よかった!!』 充実した人生のための体験


社会
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『病気をして、よかった!!』原信一郎著 新星出版・1320円

 従来の医学が、臓器別の身体医学が中心であったのに対し、心身医学は医学の原点に立ち戻って、心身両面から患者を理解し、診療しようとする。その内科領域での心身医学的な診療の場が心療内科である。心療とは心理療法の意味で、心理療法的なアプローチも含めて一般内科的な診療を行うことになる。

 著者の原信一郎先生は、九州大学医学部心療内科での研修後、国立精神神経センター国府台病院心療内科で長年にわたって診療経験を積み、日本心身医学会、日本心療内科学会合同による心療内科専門医の資格をとられた。今回、先生は「病気をして、よかった」という、刺激的で興味深い本を出版された。

 本書は心療内科で経験する、機能性デイスペプシア、過敏性腸症候群、ぜんそく、アトピー性皮膚炎、摂食障害、自律神経失調症などを取り上げ、具体的に患者自身の治療体験記(手紙)と、心療内科医としての先生の診療内容の解説が対比して示されている。それぞれ各項目のまとめには、ストレスや不安の多い時代に生きる患者やわれわれへの「応援歌」として、著者の大好きな歌手、中島みゆきの歌詞を紹介している。

 本書に登場するそれぞれの患者は、原先生との良好な信頼関係のもとに、心療内科的な治療によって、種々の心身の障害から解放され、現在はその人らしく、元気に充実した人生を楽しんでいるとのこと、従って、病気をしたことは、必ずしも否定的な経験ではなくて、むしろ病気の成り立ちを理解し、適切な対処方法を身につけていくことは、人生にとって望ましい、貴重な経験といえよう。「病気をして、よかった」という本書の題名もそのことを指しているのであろう。

 通読してみて、文章も平易な言葉でわかりやすく書かれており、本の最後には、心身医学、各種心理療法、ストレス関連などの文献が示されていて、本書は心身医学、心療内科の貴重な啓蒙(けいもう)書ないし入門書といえる。

 (中川哲也・九州大学名誉教授)


 はら・しんいちろう 1949年石垣市生まれ、医師。共著に「心身医学を学ぶ人のために」「ストレスと病い」など。