〈70〉高次脳機能障害 「見えない障害」理解を


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 私たち人間の脳には、息をする、心臓を動かすなど「生きていくために欠かせない機能」に始まり、食べる、手足を動かす、見る、聞くなどの「基本的な機能」、さらに知識に基づいて行動を計画し、実行する「高度な機能」があります。この脳の「高度な機能」を「高次脳機能」と呼びます。

 脳のけがや脳卒中などの病気が原因で脳に傷がつくと、体の動きは回復しても「高次脳機能」がうまく働かず、周囲の状況に合わせて適切な行動を取ることができなくなる場合があり、この状態を高次脳機能障害といいます。

 高次脳機能障害の症状には、新しいことが覚えられず、何度も同じことを話したり聞いたりする「記憶障害」、気が散りやすく、落ち着きがない、集中できない「注意障害」、物事の計画を立てて段取りよく進めることができない「遂行機能障害」、感情や行動を自分で調節することが難しくなる「社会的行動障害」などの症状があります。

 これらの症状から日常生活や社会生活を送る上でさまざまな困難を生じやすい一方で、見た目からは障害が分かりにくく、本人の自覚がないことも多いため「見えない障害」とも言われ、周囲には理解されにくいという特性があります。

 人によって症状も程度もさまざまで、退院後しばらくしてなんとなく以前と違う事に周囲が気付いたり、入院中や退院後は大きな問題なく生活ができたりしても、進学や就職、転職などの環境の変化によって、初めて問題が明らかになる場合もあります。症状が残っていても、環境を整え、社会生活を積み重ねることで過ごしやすくなることもあり、そのためには周囲の理解や支援がとても大切です。高次脳機能障害と診断されると、生活や就労のための福祉サービス等の利用ができることもあります。

 脳のけがや脳卒中などの病気の後で以前と違う人になった、もしかしたら高次脳機能障害かもしれないと感じたら、かかりつけ医や高次脳機能支援拠点機関にご相談ください。

(加藤貴子、沖縄リハビリテーションセンター病院・リハビリテーション科)