<書評>『島に学ぶ地域ケア』 豊富な実践と理論融合


社会
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『島に学ぶ地域ケア』大湾明美著 オフィス・コオリノ・1320円

 何人も老化や死から逃れることはできない。長寿社会の中で、高齢期の介護ケアや終末医療の課題は、私たちの英知を結集して取り組む必要がある。

 本書は、看護教育および地域看護ケアの最前線に立ち実践してきた著者が、大学教員、研究者、実践者として40年余にわたり温めてきた理論と実践の融合を通して書かれた作である。また、離島における看護ケアの現状に鋭く切り込むことで、課題を浮き彫りにし、解決策の可能性についても多くの示唆を与えてくれる待望の1冊である。

 著者は、地域で継承されてきた豊かな伝統文化や生活習慣の良さ等を看護教育に応用することの重要性について言及するなど、地域看護ケアの充実に取り組んだ実践を踏まえ、大学院での研究から明らかになった知見が随所にみられる。

 離島における高齢者に対する看護ケアや終末医療の在り方については、高齢者のニーズに応じた支援などの実践を通し、高齢期の課題の一つである人生の統合を成し遂げることで、澄みきった気持ちで人生を全うすることの重要性についても述べている。地域看護ケアにおいて、継承発展してきた地域文化の活用および個々人の死生観に焦点を当てることで、高齢者の人生や生きがいなどさまざまな背景要因にも配慮したホリスティック(全人的)な看護ケアの考えに立ち、高齢期を老年学的な視点から述べていることも貴重である。

 波照間島、池間島、多良間島、伊平屋島など離島の医療ケアの実践例は、人生の最後をどこでいかに生きるのか、そのために異世代間との地域交流や地域の医療資源などマンパワー活用の重要性にも気づかせてくれる。また、沖縄県の保健医療福祉に関する歴史的変遷についても、戦後から現在までを経時的に振り返ることでその時々の状況を理解できる内容となっている。

 本書は、看護教育に携わる大学教員や学生に加え、地域看護ケアに従事する医療看護従事者、家庭で介護をしている方々、自らの高齢期を充実させることで人生の集大成を成し遂げたいと考える人々にお薦めしたい。

 (下地敏洋・琉球大学大学院教育学研究科教授・老年学)


 おおわん・あけみ 1956年宮古島市伊良部島生まれ。沖縄県立看護大学老年保健看護教授。県の地域包括ケアシステムのあり方検討会地域づくり部会長など務める。