<書評>『沖縄戦の戦争遺品』 声なき声に聞き耳立てる


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄戦の戦争遺品』豊里友行著 新日本出版社・2640円

 沖縄そのものが丸ごと「戦争遺品」ではないか。沖縄戦も戦後の米軍統治も直接体験していない44歳の写真家である著者は、しかし、「いくさ」を強く意識して、こう実感する。

 きっかけは2007年、国吉勇さんとの出会いだった。戦没者の遺骨と遺品の収集を国吉さんは続けていた。沖縄戦終結当時、6歳の国吉さんは遊び場にしていた那覇市の陣地壕跡で白骨を見つけた。長ずるにつれ、沖縄の山野に、戦没した人々が遺骨となって眠っていることを知った。以後、16年に引退するまで何かに憑(つ)かれたように遺骨を掘り当て、10万点以上の遺品も発見した。

 米兵のものも含む兵士の認識票、万年筆、印鑑、水筒、飯ごう…。そのうち63点の遺品の写真がこの本に収めてある。また、国吉さんの活動を紹介し、その収集作業に同行するたびに、自身と沖縄戦との関わりを考え始めたこともつづる。自らが命を授かった母のことだ。

 沖縄戦の前年に生まれたばかりの幼子だった母は、両親に抱かれ、沖縄本島南部のガマを転々とした。最も弱い立場の幼児を当時、泣き声を立てると米軍に見つかるから、与える食料もないから、という理由で親が殺してしまう悲劇が頻発していた。しかし、母の両親は「戦争が終わったら、きっといい時代が来る」とわが子を守り抜く。その強い気持ちがなければ母が生き延びることはなかった。自分も存在しない。想いを巡らすと、著者は身震いし、出会った遺骨や遺品に瞑目(めいもく)する。祈りながらシャッターを切る。

 国吉さんが見つけた膨大な遺品は、「戦争資料館」と名付けた、その自宅の一角に保管してある。戦没者が遺(のこ)したこれらのものは、遺族の元に帰りたいと訴えかけてくるようだ。その声なき声に、著者は聞き耳を立てる。声には主がいて、かつて生きた証として名前もあった。その一人一人の生と死の場面を想像するのだ。

 「血の島」となった沖縄の土に、今も戦没者の骨片がしみ込み、遺品も眠っている。沖縄は戦争の記憶と死者の尊厳を訴え続ける空間であることを、本書はあらためて教える。

 (藤原健・本紙客員編集委員)


 とよざと・ともゆき 1976年沖縄県生まれ。写真家、俳人。2017年、写真集「オキナワンブルー 抗う海と集魂の唄」で、さがみはら写真新人奨励賞受賞。