〈71〉手掌多汗症 手術の前によく考えて


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 手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)とは手のひらから多量の汗が出る疾患で、日常生活に支障を来たし悩んでいる方も大勢います。これまで各施設で手術治療を中心に積極的に行われてきましたが、術後必ず起きる代償性発汗(だいしょうせいはっかん)が問題となっています。日本皮膚科学会は手術を実施するまでの流れを示していますがまずは各種保存的治療を行い、それでも困難な場合にのみ手術を検討する流れを推奨しています。

 さて、現在よく行われている治療方法は大きく分けて4種類ほどで、(1)内服薬(2)外用剤塗布(3)イオントフォレーシス(電気治療)(4)手術となっています((1)(3)(4)は保険適応)。内服薬は抗コリン薬であるプロバンサインや漢方薬(現在使用されているものは計5種類程あり)で、いずれも体質、体型などに合わせて使用していきます。

 外用剤は塩化アルミニウム液とクリームの2種類がありますが、通常は水道水で薄めることができる塩化アルミニウム液を用いることが多いです。そしてこれらの治療でも効果が乏しい場合はイオントフォレーシスを行いますが、これは電流を流した水に手掌を浸すもので、十数回実施して効果があればそのまま通院継続でも良いし、市販されている機器(3万~4万円程度)を購入してもらうこともあります。

 前述(1)~(3)までいずれも効果が無く、満足できない場合は最終的に手術も検討します。手術は胸腔鏡下交(きょうくうきょうかこう)感神経(かんしんけい)焼灼遮断術(しょうしゃくしゃだんじゅつ)(ETS)を行うのですが、通常、18歳以上の方、非喫煙者、BMI25以下、心臓・肺の手術や肺炎の既往の無い方などが適応とされています。ほとんどの方で効果が期待できる反面、やはり代償性発汗が最大の問題となっています。

 これは手汗が減った分、背中・腰・大腿部(だいたいぶ)などの汗が増えるという合併症です。これは、発汗量の程度・心理的影響も個人差が大きく、ほとんど気にならない人から新たな悩みとなる人まで様々です。予測することはできませんので、術前に保存的治療を納得いくまで行ない、どうしても手術が必要なのかを慎重に検討することを強くお勧めします。

(平良一雄、与那原中央病院・外科専門医)