<書評>『歌集 あけもどろの島』 祖国復帰の闘いと幻想


社会
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『歌集 あけもどろの島』平山良明著 現代短歌社・880円

 平山良明氏の第一歌集「あけもどろの島」が文庫本となって出版された。うれしいことである。

 「わが祖国確かめんいまかがり火の波の彼方に疼く与論島」

 「祖国復帰」という闘いがあった。さる大戦で敗戦国となった日本は琉球諸島を米軍の占領下に委ねた。私たちに基本的人権は存在しなかった。ゆえに「祖国日本の憲法の下」に復帰するという闘いであった。毎年、4・28海上大会が行われた。辺戸岬でかがり火をたいて与論島と呼応したのである。一首は暗闇の海上に「祖国を確かめん」とする作者の強い思いが込められている。

 「求め来し母国は遠しはろばろとおきなわのこころとどかざるまま」「足かせを曳きずりしまま歩み来し二十六年の歳月を思う」

 米軍支配下の沖縄では米軍人がらみの事件事故が日常的に発生した。由美子ちゃんが殺された。国場君が殺された。県民の命の犠牲の上に基地が存在した。県民はこの屈辱から抜け出ようと、何度も県民大会を開いた。「はろばろと」以下の「かな表記」に作者の虚しい思いの心の裡(うら)が読み取れる。

 「血の色をあびせる如く有刺鉄線囲みて嘉手納の基地に居すわる」

 県民の闘いに日米の支配層は何の反応も示さない。ならば直接、米軍基地を取り囲んで世界に意思表示をしようという闘いが生まれた。県民の「血を吐く思い」を基地を守っている有刺鉄線に浴びせて嘉手納基地を包囲した。

 「空疎なる幻想を追う日々にして試されておりおきなわの旗手」

 72年祖国復帰が近づく。復帰の内容が明らかになるにつれ、はたしてこの闘いに勝利はあるのかという疑問が生じてきた。それは作者自らへの問いでもあった。

 平山氏は「炎の人」である。作者自身が語るように「私の短歌は悲しきものの具であり、また火の固まりのようなものである」と。平山氏は長きにわたって沖縄短歌会をけん引して来られた。この歌集が多くの人に読まれることを切に願いたい。

 (當間實光・未来短歌会所属)


 ひらやま・よしあき 1934年今帰仁村生まれ。高校教師をしたのち、琉球大学や名桜大学などで非常勤講師。72年に第1歌集「あけもどろの島」、2006年に第3歌集「時を識る」刊行。