<書評>『奇跡の島々の先史学 ―琉球列島先史・原史時代の島嶼文明―』 持続可能な祖先の営み


社会
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『奇跡の島々の先史学 ―琉球列島先史・原史時代の島嶼文明―』高宮広土著 ボーダーインク・2420円

 本書は琉球の島々の遺跡を俯瞰(ふかん)し、世界の島の先史文化と比較する著作である。そこでたどり着いた一つの結論が「島嶼文明」である。

 著者高宮広土は沖縄で生まれ、アメリカの大学で先史人類学を学んだ。1993年に北海道で大学教員生活をスタートさせ、2015年より鹿児島大学国際島嶼教育研究センターに移り、現在奄美大島を拠点に研究活動を行う。長年遺跡の土中に含まれる炭化した植物遺体の回収を行い、琉球列島におけるヒトの植物利用の歴史を明らかにしてきた。

 遺跡の調査成果はしばしば新聞でも目にする。しかし、その調査結果がどんな意味を持ち、評価されているのかについて紹介される機会は少ない。05年著者によって書き下ろされた前作『島の先史学』(ボーダーインク)は沖縄の先史時代を活写し、世界史的視点から評価した一書となった。しかし、刊行後批判もあった。そこで、『奇跡の島々―』はこれら批判を紹介し、自身の見解を述べるとともに、刊行後約15年の間の新たな発掘成果と研究によって構成される。

 島は一般にヒトが住みはじめるとバランスが崩れ荒廃するという。琉球列島の島々に遺る遺跡は、ヒトと自然が長きにわたって調和していたことを著者は強調する。旧石器時代には既にヒトが住み、数千年にわたって狩猟採集民が暮らし、狩猟採集社会から王国を形成する複雑な社会を誕生させた島は、世界にあまたある島を探しても存在しない「奇跡」と形容する。島と文明はいささか程遠い存在に聞こえる。しかし、持続可能な開発が求められる今だからこそ、自然と調和した島の暮らしこそ「文明」と呼ぶにふさわしいのかもしれない。

 本書には島々の地元研究者の名前がたびたび登場する。研究者としての真摯(しんし)な姿勢と地元沖縄に対する愛が、著者約30年の研究に奇跡的な出会いがあったのであろうことを想像させる。

 私たちの住む島の遺跡が、人類史に新たに加えられる一ページとなるか、本書を通し先史学が描く祖先のサスティナブルな営みにぜひ注目いただきたい。

 (宮城弘樹・沖縄国際大学准教授)


 たかみや・ひろと 1959年那覇市生まれ、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター教授。主な著書に「島の先史学 パラダイスではなかった沖縄諸島の先史時代」「奄美・沖縄諸島先史学の最前線」(編著)など。