<書評>『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集38』 個性豊かな人間物語


社会
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『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集38』沖縄エッセイスト・クラブ著 新星出版・1500円

 この本には人、場所、味、色、技、希望、記憶、歴史、ユーモアがあふれる個性豊かなエピソードが網羅されている。人間、時代、刑事物語、時にはお笑いのように読者の肌に触れる沖縄物語である。歴史、行事の表現と個人的なエピソードは、直接的もあれば、まとまらないまとまり方もある。普通ではない普通を表すエピソードから意外な発想と教えが哲学的である。

 足つりは救い主になる(長田清)。輪タクにだまされても後悔しない前向きな思考(本村繁)は敵をうまくあしらうという沖縄独特な手ぃ。「ポットン便所」と青馬車の関係や井戸で風呂に入っていた子供たちは、風呂の回数が多いほど自慢になる昭和時代劇(新城静治)。俳句の音に従わない青パパイヤの発音は「沖縄はシュールであいまいなんです」と沖縄芝居のようなアドリブで夏井いつき氏に説明する(ローゼル川田)。

 未知を恐れずに人生を実験していく人生の迷路から得る知恵(津香山葉)。亡き夫が植えていた花を飾り、感謝の気持ちを与えて花は、自然の息となる(仲原りつ子)。宮古島市・下地島空港を宇宙旅行の発着基地にするという将来の計画をユニークな視点でつづる(上原完隆)。内面的な体調異変を刑事物語のように「犯人」を追う(大宜見義夫)。メリケン粉を主に作られた母の卵焼きの美味しさ(中山勲)。

 コロナの渦中からいずこへ向かう。この時代を生きている私たちの責任・義務がある。「一番の犠牲者は子供たちであろう」と展開しつつ、今頼れる者・物に支えられながら未来の優しい風を待つ(永吉京子)。著者の心理的な動きと前に進む努力が共存するコロナ記録表(金城弘子)。幸運の旅と思い出が、遠い懐かしさをしみじみと感じさせる(與那覇月江)。

 ほかにも沖縄の行事、歴史、自然との共存などについて、意外な発見、物の考え方、子どもたちのために残された記憶と記録があり、読者の心を揺さぶり、あるいはくすぐるでしょう。

 (池原えりこ・学者)


 沖縄エッセイスト・クラブ 1983年以降、年に1回、合同でエッセイ集を発刊している。「作品集38」は会員29人が寄稿している。まえがきには「執筆者が心に描いた絵を言葉という筆で描き、エッセイという作品に仕上げた結晶」と記されている。

 

沖縄エッセイスト・クラブ編著
四六判 296頁

¥1,500(税抜き)