男女格差の解消に取り組む際、必須になるのが男女比の統計データだ。本紙の連載でも多用してきた。例えば、職員全体と管理職の男女比を比べることで、女性が出世しづらい構造的な問題を見ることができる。
琉球大法科大学院の矢野恵美教授(ジェンダー法)は「統計がなければ、見えなくなる差別がある」と語る。履歴書などにある性別欄について「本来は要らないが、今の日本では残しておくべき場面もある」と指摘した。
ただ、面接官や採用担当者が性別を把握した上で選考した場合に偏見で女性が不利になりやすいなど、性別欄が格差を助長する恐れも指摘されてきた。性別欄の記入自体が負担となる人たちもいる。
性的少数者を支援する認定NPO法人「ReBit(リビット)」(東京都)が2019年に実施した調査によると、出生時に割り当てられた性別と自認の性別が異なるトランスジェンダーの87・4%が就職活動時に性に関連した困難を経験している。47・4%が「エントリーシートや履歴書に性別記載が必須で困った」と答えた。トランスジェンダーの回答者に複数選択で経験した困り事を選んでもらったところ、性別欄の記載必須が突出していた。
リビットの薬師実芳代表理事は性別欄について「男女二択式でどっちに丸を付けたら良いか迷って就職活動を諦めたという声もあった。自認する性別を選んだ後、採用時に戸籍上の性別と異なることが判明して内定切りに遭った人もいる」と説明した。
県内自治体の8割が職員の採用試験に当たって、受験申込書や履歴書に男女二択式の性別欄を残していることが本紙の調べで判明した。履歴書から性別をなくす活動に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」(東京都)の佐藤学氏は「トランスジェンダーで法律上の性別と自認する性別が異なる場合、性別記載自体が負担なので、採用の入り口にすら立てず排除されている状況がある」と指摘した。
佐藤氏は「合理的理由や当事者への配慮などがないままに履歴書の段階で聞くのは差別につながる可能性を生む。欧米諸国では採用試験の段階で性別など個人的な情報を聞かないのが通例だ」と説明。その上で、「日本でも、民間にも影響を与える公的な機関が積極的に差別を是正してほしい」と訴える。
さまざまな差別が複合的に存在する社会で、性的少数者に配慮した上で差別を可視化する方法を考える必要がある。
矢野教授は性別欄を残した上で多様性に配慮するために明記すべき点として、(1)自認する性別でいい(2)必要な統計にのみ使う(3)記載しなくても構わない(4)書類の受付者のみが見る―の四つを挙げた。性別など個人情報を見ることなく面接や選考を行うことで、女性や性的少数者への差別回避につながる。
県内でも性別欄の扱いを見直した自治体もある。那覇市の担当者は行政職の受験者が記入する資料から性別欄をなくした。
県は20年度実施の試験から性別を任意記載にし、1割程度が空欄だった。記入しないことが採用で不利に働くという不安を与えるのではないか。懸念を伝えると、県人事委員会の担当者は「性別欄が採用に影響することは一切ない。今後、その旨を明記することも検討する」と語った。
リビットの薬師代表理事は「採用時の性別欄だけじゃなく、働いてからの配慮も大事だ。採用側が働きやすい環境をつくり、就職希望者に向けて積極的にその取り組みを発信することで安心して職場を選ぶことができる」と語る。
矢野教授は「女性差別と、性的少数者への差別はそこに属しているだけで差別されているという点で構造が同じ。共に取り組むべき問題だ」と語った。一方、就活で女性が不利になる場面や収入格差はある。「男女という法的な性別に基づく格差もあることにも配慮しながら、連帯して取り組むことが大事だ」と語った。
(明真南斗)
世界的にも遅れている日本の「ジェンダー平等」。玉城県政は女性が活躍できる社会の実現を掲げ、県庁内に「女性力・平和推進課」を設置しましたが、政治や行政分野で「女性の力」を発揮する環境が整わない現状があります。女性が直面する「壁」を検証します。報道へのご意見やご感想のメールはseijibu@ryukyushimpo.co.jpまで。ファクスは098(865)5174