〈72〉手足の痙縮 ボツリヌス療法で緩和


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 脳卒中や外傷などにより、脳や脊髄を損傷してしまうと手足が動かしにくくなります。さらに時間がたつと、手足が固くなる、つっぱりなどの後遺症がでてくることがあります。これを「痙縮(けいしゅく)」と呼びます。脳卒中後の痙縮は約20~40%程度出現するとされていて、決してまれな症状ではありません。

 われわれの脳や脊髄は、筋肉などの動きや緊張をコントロールしています。脳や脊髄が損傷されると、この調節が効かなくなり、筋肉が緊張し続け、痙縮が起こるとされています。筋肉が固まると周りの関節も動かしにくくなり、痛みなどが原因で日常生活に支障がでてきます。

 これらを少しでも緩和する方法の一つとしてボツリヌス療法があります。ボツリヌス菌が作り出すトキシンといわれるタンパク質を筋肉内に注射する方法です。菌そのものを注射する訳ではありません。この治療により筋肉が緩み、動きがスムーズになったり、痛みが緩和されたりすることで、日常生活の中でできることが増えてきます。

 この治療は海外でも古くから有効性の証明はされていて、痙縮の他にも眼瞼(がんけん)・顔面痙攣(がんめんけいれん)(目の周りや、顔がぴくつく)、痙性斜頸(けいせいしゃけい)(首がさがったり、横をむいたりする不自然な姿勢)などにも使用されています。この注射を行うことで、痙縮が緩和されますが、筋肉や関節が動かしやすくなった時に、リハビリテーションもしっかりやることで脳の『可塑性(かそせい)』(損傷された神経細胞の代わりを元気な細胞が頑張るように再構築される機構)の促進も証明されています。

 手足が動かしやすくなるのは脳にも良い刺激になるようです。この治療を行うと2~3日で効果が表れ、3~4カ月持続すると言われています。3~4カ月に1回(春夏秋冬に1回)は治療をしなければなりませんが、それに見合う効果も証明されています。

 もちろん、個人差はありますが副作用は少ないといわれていますので、手足が固くなったり、つっぱったりして日常生活に支障がある方は、一度このボツリヌス療法を考慮してもいいかもしれません。

(城本高志、大浜第一病院・脳神経内科)