「不動産の売却はしない」「5年でブランド価値を高めて沖縄の企業に株式を買ってもらい沖縄資本に戻す」「数年をめどに上場する」―。23日、オリオンビールの買収発表に同席した野村キャピタル・パートナーズの前川雅彦社長は、いくつかの「公約」を口にした。会見の後にも、関係企業に対して買い付け価格の株価7万9200円を挙げて「倍にする」と発言した。ビール業界全体の縮小傾向にもかかわらず示された高いハードルに、実現可能性を疑問視する声も多い。
ある地銀幹部は、ビールもホテル事業も競争が激しくなるとして「5年以内に上場して株価倍というのはどこまで本気なのか」と首をかしげる。
別の地銀幹部は、買収後に雇用を維持したとしても、宣伝広告費やイベント協賛費などは大幅にカットされる可能性が高いと推測する。「オリオンが地域に根差した企業であるがゆえに地元に還元してきた部分もあるが、今後は間違いなくコストカットに大なたが振るわれるだろう。それこそが、地元経済への影響を考えなくてはならないわれわれとは大きく違う、彼らの武器だ」と指摘した。
オリオンの財務状況は良好だ。オリオンの2018年3月末の有価証券報告書によると、沖縄振興開発金融公庫から約21億円、県のふるさと融資から8億円を借り入れ、琉球銀行、沖縄銀行、沖縄海邦銀行の地銀3行はそれぞれ5億8千万円余りと協調融資している。別の地銀関係者は、野村とカーライルが自分たちのメインバンクを連れてくる可能性は十分にあるとしながら「これまで言っているように地元との関係を重視するのなら貸し借りはそれほど大きく変わらないだろう。むしろ問題は5年後、株式の引き受け手探しだ」と話した。
野村ホールディングスの広報は、新規株式公開(IPO)は出口戦略の選択肢の一つだとして「仮に上場を目指す場合、安定株主をつくるためにIPO前に地元の金融機関や企業にある程度の株式を買ってもらうことも考えられる」と説明した。
しかしある金融関係者は「仮に目標を達成して株価が倍になったとしたら、オリオンは1千億企業になる。県内企業の出資できる額では、沖縄の資本と言えるほどには株を買えないだろう」と指摘する。1957年の創業時に、地元資本にこだわり海外企業の株式購入を断った歴史を持つオリオンビール。再び沖縄資本に戻る日は来るのか、多くの県民が注目している。
(沖田有吾)