29日の株主総会でオリオンビール社長を退任した早瀬京鋳氏は、外資系企業で培ったマーケティング戦略を前面に、オリオン買収後の「第二の創業」を象徴してきた。5年後の株式上場というスケジュールに向けて企業価値向上の役割を株主から期待されてきた一方、コロナ禍で業績は厳しさがあった。それでもオリオン幹部は「コロナの影響はどの企業も避けられず、退任の理由にならない」として、“解任”という見方を全面否定する。「一身上の都合」を繰り返した突然の退任劇は、社内外に驚きと戸惑いを広げている。
早瀬氏は退任について任期満了を強調した一方で、「非常に個人的な一身上の都合で、それ以上でも以下でもない。スポンサーと相談して決めた」と不測の事態もにじませた。
同社の関係者によると、5月はじめごろまでは続投が当然視されていたといい、社員に退任が正式に伝えられたのは会見の直前だった。ある社員は「業績が落ち込む中でトップが空席になるのだから、個人的な事情とはいえ詳細な説明をしてほしい」と話した。
話題作り
早瀬氏は19年7月の就任以降、オリオンビールのブランド強化に努めてきた。就任直後に「75ビール」の全県販売を決めると、主力の「オリオンザ・ドラフト」をリニューアルして伊江島産大麦を用いるなど、プレミアム路線を進めた。
缶酎ハイ「WATTA(ワッタ)」は、限定商品や県内企業とのコラボなどで話題作りに成功。高アルコール商品の廃止を決め、低アルコールのハードセルツァーを発売するなど、消費者の健康志向に訴える戦略に踏み出した。
CSR活動やSDGsの取り組みなど企業の社会貢献に力を入れ、自身がメディアに露出することも多かった。ある社員は「『安いから買うオリオン』から、楽しく良いことをしている会社とみられるようになった」と話す。
改革で不満も
一方で豪腕ぶりは摩擦も生じることがあったという。強力に人事権を発動することも多く、社内に不満の声もあった。
4月には代理店制度を変更し、小ロットの配送の場合、配送料を店舗が負担することになった。特に缶に比べて賞味期限の短い生ビールは店側の負担が大きく、コロナ禍で需要が減少した飲食店向けの代理店から悲鳴が上がっている。
ある酒販店は「コロナ以前ならともかく、現状では100ケース単位で仕入れてもそう簡単には売れない。小規模店舗は大変だ」と嘆く。OBの1人は「合理化は必要だが、オリオンが長年培ってきた信頼関係は大きな財産だ。相手を思うやり方があったのではないか」と疑問を呈した。
後任の社長について、亀田浩専務は「内部からは難しい」として、引き続き外部から起用される可能性が高いと示唆した。株主である野村ホールディングスと米カーライルグループの人選により、マーケティング重視や改革路線は継承される見込みだが、当面はトップ不在による混乱も予想される。
(沖田有吾)