【深掘り】沖縄県内の路線価、根強い人気 需要「蒸発」の商業地、住宅地需要が底支え


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沖縄国税事務所が発表した2021年1月1日現在の路線価で、県内最高となった那覇市久茂地3丁目、国際通り周辺=6月30日

 1日に発表された県内路線価(2021年1月1日時点)は、標準宅地に関する対前年変動率の平均はプラス1.6%に鈍化し、前年のプラス10.5%から大きく低下した。コロナ禍による大幅な観光減が背景にあるが、7年連続の上昇は維持し、県内の影響は限定的とする見方もある。識者は「住宅への需要が高まったことで、路線価上昇を底支えした」と分析し、「沖縄の土地需要の高さが現れている」とみている。

 沖縄の観光客数は2011年以降上昇を続け、19年に初の1千万人を突破。19年度の観光収入は7047億4500万円と高い水準を維持していた。しかし20年以降、新型コロナ感染拡大で沖縄を訪れる観光客は激減し、外国人客はゼロが続く。

■空き目立つ店舗

 観光客向けの商業施設などが集中する地域では、需要が“蒸発”。那覇市の国際通りは観光客向け店舗の業績が大打撃を受け、空きが目立つようになった。

 市内を中心に不動産売買の仲介を営む男性は「コロナ以前と比べて取引件数は減った印象だ」と話す。その一方で、国の持続化給付金などの支援策で、売り手が困窮するに至っていない現状を指摘する。

 男性は「収束すれば土地の利用価値が高くなるのは確実だ。よほど切羽詰まっていないと安売りするという選択はしづらい」と話す。需要はあるものの、売り手と買い手の価格認識の相違によって取引が不調となり、路線価を押し下げている現実もあるようだ。

 経済活動の停滞から商業店舗の需要が低調な一方で、住宅に関する需要は異なる動向を見せている。おきぎん経済研究所が発表した2020年の県内賃料動向調査は、新築.中古の全6類型で前年より上昇した。同研究所は「一般住宅需要は入退去の動きがやや鈍くなったものの、大きな変化はみられない」としている。

■全国2番目

 県不動産鑑定士協会の髙平光一会長は、コロナ禍にも関わらず今回の県内路線価が全国2番目の上昇率だった点を挙げ「商業地の落ち込みを住宅需要が引っ張り上げているという印象だ」と指摘する。

 髙平氏によると、那覇市内の住宅地は高値で推移するものの、郊外に目を向けると比較的手頃な物件があり、金利の安さも追い風になって取引される事例は少なくないという。髙平氏は「投資にしろ実需にしろ、住宅需要は根強い」との見解を示す。

 同じく不動産鑑定士の濱元毅氏も「経済の停滞の割にはそこまで路線価は落ち込んでいない。コロナ収束後も見据え、投資家の沖縄に対する人気の根強さを物語っているのではないか」と評価する。

 一方で、濱元氏は「現時点では金融緩和政策の恩恵があるが、現状は異常だと思う。木材価格が高値の動きを見せており、国や県の支援策もいつまで続くのか分からない」と、今後の不動産環境の不安材料も指摘する。「コロナ収束に向けた先行きの不透明さが、需給のバランスにも影響を与えるかもしれない」と指摘した。
 (小波津智也)