<書評>『沖縄文学の魅力』 作品の背景 丁寧にたどる


社会
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『沖縄文学の魅力』仲程昌徳著 ボーダーインク・2200円

 本書は、山之口貘の章、大城立裕の章、個別の章から成る。詩、小説、沖縄戦をめぐる言説、戯曲など、多岐にわたるジャンルが取り上げられ、まさに沖縄文学の魅力がふんだんに詰め込まれた一冊となっている。

 山之口貘の章では、まず貘が「ない」ということをどのように捉え、詩句に結晶させていったのかがひもとかれる。結婚相手、座布団の上にある「楽」という状態、妹からの問いかけに対する答え…。それらが「ない」状態と向き合う貘の「思弁」に注目した著者は、「『ない』をふり絞って生まれたのが、貘の詩であった」と述べる。

 芥川賞受賞前後の大城立裕作品についてはすでに多くの研究が重ねられているが、著者が大城立裕の章で取り上げるのは、そういった大作ではない。むしろ、70年以上の作家歴を持つ大城が生み出した膨大な作品群のなかで、取り立てて目立つとはいえない小説がほとんどである。しかし、見過ごされがちな小説の細部には、小説の材を歴史に取ることの困難がにじみ出し、特定の語句にこだわったことの意味がある。それらに注目する著者の分析は、作家・大城立裕の魅力をさらに深めるものとなるに違いない。

 個別の章には、新川明、川満信一、山城達雄、東峰夫、星雅彦、勝連敏雄、又吉栄喜の名前が並ぶ。特に、「オキナワの少年」で芥川賞を受賞した東峰夫の作家姿勢についての論考は興味深い。大城立裕が書いた東峰夫作品に関する論評、「貧乏文士」山之口貘のイメージ、編集者とのやりとりなどがぎっしりと詰め込まれ、沖縄から文学を志して上京していった青年・東峰夫の状況がよくわかるものになっている。

 一つひとつの作品がどのような時代や状況を生きた書き手によって生み出されたのかを丁寧にたどりなおし、細部のこだわりや表現を見逃さずに読んでいく著者の姿勢には、沖縄文学への愛情と期待がある。本書の刊行によって沖縄文学への扉はさらに大きく開かれ、新たな読者を呼び込むことだろう。

 (村上陽子・沖縄国際大学准教授)


 なかほど・まさのり 1943年テニアン島生まれ。元琉球大学教授。著書に「山之口貘 詩とその軌跡」「沖縄文学の一〇〇年」「南洋群島の沖縄人たち」など。

 

仲程昌徳 著
四六判 290頁

¥2,200(税込)