<書評>『沖縄語をさかのぼる』 多様な言語 ルーツ読み解く


社会
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『沖縄語をさかのぼる』島袋盛世著 白水社・2640円

 奄美・琉球諸島で話されている琉球諸語は消滅の危機にひんしている。沖縄県をはじめ多くの組織・団体が言語復興にむけた取り組みを展開しているが、その際に琉球諸語の多様性を考慮する必要がある。奄美・琉球には約800の集落があり、それぞれの集落で話されることばは何らかの違いがあるといわれている。

 本書の筆者は音韻論・比較言語学を専門とし、琉球諸語の歴史的な音声変化を長年にわたり研究している。本書はその成果の一部である。六つの琉球諸語の特定の単語の音声を比較し、その歴史をさかのぼって元々の語形を類推する過程を著したのは本書が最初であると思われる。単語の元々の形がどのようなものであったのかを探る作業はパズルを解くような楽しい作業であることが分かった。

 本書を読んで、琉球諸語が多様性に富んでいること、言語は変化すること、そして琉球諸語と日本語が同系列の言語であることを再認識した。

 本書は「日本語と沖縄語」「琉球諸語の多様性」「比較から琉球語をさかのぼる」の三章からなる。第一章では、日本語と沖縄語の音声面および文法面での相違点と類似点を示して、沖縄語の特徴を述べている。その上で、日本語と沖縄語が元々は一つの言語から分岐した(共通のルーツを持つ)姉妹言語であることを論じている。第二章では、同じ意味を持つさまざまな単語の例を示して、琉球諸語の多様性について述べている。

 第三章では、「鏡、昨日、首、毛、心」の五つの単語を例として、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語をさかのぼり、これらの単語が元々はどのような形をしていたのかの分析を展開している。音声は前後にある別の音声の影響を受けて変化することがある。変化するのかしないのか、またどのような変化をするのかは言語によって異なる。このような「変化・無変化」が多様性を生んでいるのである。上記の単語については元々の形が現代日本語と同じかよく似た形であったであろうということはおもしろい「発見」である。

 (石原昌英・琉球大学教授)


 しまぶくろ・もりよ 琉球大学教授。専門は比較言語学、音韻論。主な著書に「The Accentual History of the Japanese and Ryukyuan Languages」など。