<書評>『どぅなんむぬい辞典』 与那国ことばの魅力伝える


社会
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『どぅなんむぬい辞典』与那国方言辞典編集委員会編集 与那国町教育委員会・1870円

 こんなに心温まる辞典がこれまであっただろうか? 「どぅなんむぬい辞典」を手に取って見てほしい。カラーの表紙にはご老人たちの和やかなおしゃべりのスナップショット。これは与那国(どぅなん)の伝統的なことば(むぬい)の辞典である。琉球列島の言語(琉球諸語)は全て消滅の危機にあるといわれ、ユネスコからも警鐘が鳴らされているが、与那国語、すなわち「どぅなんむぬい」は、最も深刻な消滅危機にある言語の一つである。まさにこのことが『どぅなんむぬい辞典』の発刊につながっている。

 しかし、冒頭で述べたように、そのような悲壮なイメージが全く感じられない辞典なのである。むしろ、伝統的なことばを自由自在に操ってきたこれまでの祖先たちに対する尊敬と愛に満ち、子孫たちにこの英知を残そうという優しさであふれている。

 与那国島にルーツを持つ人以外にも、「どぅなんむぬい辞典」は魅力的である。何より読んでいて面白いのである。与那国語で引いて和訳を示す「本文編」は、ランダムに読むだけでもさまざまな発見があるに違いない。例えば「だま」を引くと、与那国以外の人にとっては、それが「山」だとは全くわからないかもしれないが、同じダ行の「だちむん」(休む)などと眺めていくうちに、日本語(や、与那国以外の沖縄の方言)の語頭のヤ行が与那国語のダ行に対応するという法則がわかり、「なるほど!」と膝を打つだろう。やはり与那国語も同じ日琉語族(日本語と琉球諸語の共通祖先をルーツにもつ言語集団)の一つなのだなあ、と納得するに違いない。もちろん逆引きもあり、和訳から与那国語の語形を探すこともできる。そして、「付録編」が本当に面白い。小字の名前、身体の図を見ながら覚えられる身体語彙(ごい)、宮沢賢治のアメニモマケズの与那国語訳(タイトルも「あみんきん まぎらぬ」!)、ことわざなど、これでもかというほど「どぅなんむぬい」の魅力を伝えてくれる。

 (下地理則・九州大准教授)


 与那国方言辞典編集委員会 米城惠氏が委員長(兼監修)を務め、委員は6人(2019~20年度)。そのほか中澤光平氏が監修を担った。地域の協力者は60人に上る。19年の初版からさらに内容を充実させた。