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大手アパレルTSIホールディングス社長は沖縄出身・下地毅さん「ファッションの力信じる」<県人ネットワーク>


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下地 毅さん

 若者に人気のナノ・ユニバースやナチュラルビューティーベーシック、ステューシーなど53のブランドを有する大手アパレル会社「TSIホールディングス」の社長に3月1日付で就任した。内部登用に加え、取締役になって1年にも満たない中での抜てき。「ファッションの力を信じ、社会をよくしたい」。強い理念を持ち、コロナ禍で業績が厳しい中、前社長から託された社の再建に挑んでいる。

 子どものころから、欧米のファッションや音楽に強烈な憧れを抱いていた。牛乳配達のアルバイトでためたお金を雑誌や服、レコードの購入につぎ込んだ。特に米軍のフライトジャケットが好きだった。ただ、沖縄戦を経験した沖縄で生まれた者として複雑な気持ちも抱えてきた。「母からは戦争で苦労した話を聞かされてきた。軍服に憧れてはいけないのではないかという思いが常にある」

 高校卒業後は文化服装学院に進んだ。卒業後はラングラージャパンにデザイナーとして入社。いくつかのアパレルブランドを経て、1990年に上野商会に入社し、「DOG FIGHT」や米国のミリタリーファッションブランド「AVIREX」のデザイナーとして活躍した。

 上野商会を退社し1995年にはロンドンで自身のブランドを立ち上げた。デザインした洋服は売れたが、ヨーロッパのビジネス慣習への理解不足から資金繰りに行き詰まり、撤退を余儀なくされた。再び入社した上野商会で2016年に専務取締役に就任、18年に社長に昇格した。19年に同社がTSIホールディングスの傘下に入ると、20年には取締役に就いた。

 「ファッションの力で社会をよくしたい」。そう強く思うようになった転機は東日本大震災でのボランティア経験だった。社会のため、人のために生きることの大事さを肌で感じた。持って行った洋服が被災地の人々を笑顔にしたことも、うれしかった。

 「自分のことばかりを考えて生きるのをやめようと思った。ファッションを通じて何ができるのかを考えるようになった」と語る。社長就任後は現場経験を踏まえ商品ロスにも注意を払い、社員とのコミュニケーションも重視する。

 厳しい時代を乗り越える忍耐力と情熱は、苦難の歴史をたどった県民から学んだ。「上京して沖縄に関する書籍を読み、ドキュメント映像を見るようになった。そこには厳しい生活の中でも、頑張る県民の姿があった。だから、簡単に諦めたり、挫折したりすることはできない」


 しもじ・つよし 1964年生まれ、宮古島の旧平良市出身。83年に宮古高校卒業。86年に文化服装学院卒業後、ラングラージャパンにデザイナーとして入社。90年に上野商会に入社。ロンドンでの自身のブランドを立ち上げ後、97年に上野商会に再入社。商品本部長、専務を経て2018年に同社社長。20年にTSIホールディングス取締役、21年3月、TSIホールディングス社長に就任。同ホールディングスの従業員数はグループ会社を含めて約6500人。