沖縄経済をリードしてきた観光産業は、長引くコロナ禍で既に限界を迎えている。新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年まで、7月中旬には夏場の沖縄行き航空機の予約は満席となっていたが、今年の予約状況は19年の半分にも満たない。追い打ちを掛けるような緊急事態宣言の6週間延長により、2年連続で稼ぎ時の夏場を失うことに強い危機感が募っている。
県内旅行業大手の沖縄ツーリスト(OTS)の社員は、延長を伝えるニュースに「またか。疲れ果てたな」とため息を漏らした。新型コロナウイルス感染拡大を受けて昨年2月を最後に団体ツアーの販売はほぼできておらず、年明け以降は個人旅行の動きも鈍ったままだ。
OTSはコロナ禍で新たな観光スタイルを見いだそうと、昨年12月にPCR検査の付いた団体旅行を企画した。だが年末年始に全国的に感染が拡大し、Go To トラベルキャンペーンは停止。企画は中止せざるを得なくなった。ツアーのために取り寄せたPCR検査キットは、段ボール箱に詰めたまま事務所に置かれている。担当者は「やってはつぶされの繰り返しで、モチベーションを保つのが大変だ」とこぼす。
感染拡大を抑えつつ、人を呼び込むために、観光業界では世界的にワクチンを接種した人など感染拡大リスクの低い観光客の誘致が進められている。
ハワイでは、州内のワクチン接種が進んだこともあり「ワクチンパスポート」と呼ばれる制度によって、米国本土から訪れたワクチン接種済みの人に対して到着後の隔離を免除し、観光客が戻ってきている。しかし県内では、13日時点で2回接種完了が10・49%にとどまり、業界内では「海外に比べて接種が遅く、観光シーズンを逃している」(ホテル事業者)とフラストレーションが募る。
沖縄国際大の宮城和宏教授(沖縄経済論)は「国は出発地でPCR検査をやるというが、希望者だけの実施にとどまれば水際対策は十分ではない」と指摘する。ワクチン接種については「感染が比較的落ち着いている県から、沖縄などにワクチンを融通してもらえるような態勢を構築するべきだろう」と述べた。
閉塞(へいそく)感を打開しようと、OTSは県外からワクチン接種後に沖縄を訪れる人を対象としたキャンペーンを始めた。県民向けにもワクチン接種者のみが参加できる団体ツアーを発表した。担当者は「現状でできることを考えた。何かしら新しい一歩を踏み出さないと始まらない」と話す。
今月12日には、観光事業者らを中心とした経済界のメンバーが、渡航前のPCR検査やワクチン接種を済ませた人にインセンティブ(特典)を用意する「オキナワブルーパワープロジェクト」の取り組みを、民間主導で開始すると発表した。
沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長は「まずは県民のワクチン接種率を高めることが大事だ。観光立県として、回復を目指す上で切り札になる」と話した。
(中村優希)