西原町在住の新垣光大さん(25)は新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2020年2月に、務めていた県内IT関連の仕事をやめた。興味のある劇場関係の求人に応募したが、コロナ急拡大によって劇場スタッフの募集が急きょキャンセルとなった。
新たな仕事を探す新垣さんは、今年5月からハローワークの求職者を対象にした「ハロートレーニング」に参加し、宅建資格の取得に向けた講習を受けている。当初の志望職種から180度の方向転換を迫られる中で、「前職より安定した不動産業にチャレンジしたい」と前を向く。
コロナ前まで県経済は企業の人手不足感が強く、“売り手市場”による雇用指標の改善が見られていた。だが、新型コロナの感染拡大で情勢は一変した。昨年4月以降、県内の完全失業率(季調値)は3%台で上昇。有効求人倍率は本年度に入っても1倍を下回り、仕事を求める人よりも仕事の数が少ない状況が続いている。
沖縄労働局によると、昨年2月から今年6月24日までのコロナ解雇は2184人に上っている。うち観光関連産業が半数超を占める。雇用情勢は厳しいが、それでも休業手当の一部を国が補填(ほてん)する雇用調整助成金(雇調金)による下支えなどで、辛うじて企業が雇用を持ちこたえている面もある。
修学旅行生の体験事業を提供する恩納村のニライカナイ(加蘭明宏代表)は現在、雇調金などを活用しながら従業員をほぼ休ませており、加蘭代表が1人で事務作業や掃除などをこなしている。
コロナ発生前の19年度は3万8335人の修学旅行生を受け入れたが、20年度は前年度の1割以下の水準(3777人)に激減した。本年度に入っても受け入れ人数はまばらで、本来の業務よりも予約のキャンセル対応の方が忙しいというありさまだ。
加蘭代表は「雇調金があっても、休ませている従業員1人当たりに支払う社会保険などが毎月2万~6万円ある。家賃や光熱費などを入れると、毎月150万円の赤字が生じている」と維持費の負担に頭を痛める。
コロナ後、国は雇調金の助成率や上限額を大幅に引き上げる「特例措置」を適用してきた。当初、8月が特例措置の期限だったが、全国的な要請を受けて1カ月先延ばしされた。
恩納村のあるリゾートホテルは、7月11日以降も緊急事態宣言が延長となったことに伴って、例年夏に多いファミリー層の予約が伸び悩んでいる。さらに、9月以降に入っていた修学旅行の宿泊予定も数校のキャンセルが出ている。
客室稼働率がなかなか上向かない中で、ホテルの担当者は「約600人の職員を抱えているのに、雇調金の特例措置が9月で打ち切られたらどうなるか想像がつかない。県が政府に延長を働き掛けてほしい」と強く求めた。
緊急事態宣言の再延長に加え、特例措置の期限が近づいていることなどで、各企業は雇用維持の正念場を迎えている。
連合沖縄の砂川安弘事務局長は「緊急事態宣言が解除されても、観光産業はすぐ回復しない。景気悪化の現時点のままで雇調金を一気に減額すると、失業率が5%にまで上がる可能性もある。特例措置の延長が必要だ」と指摘した。
(呉俐君)