那覇市鏡原町の刺身居酒屋「能登の海」が3月、新型コロナウイルスの影響で経営が厳しくなり、23年間の営業に幕を下ろした。店内には、特に年配の地元客にとって思い出深い大きな写真パネルが飾られていた。店舗がある場所には1950年代に埋め立てられる以前、国場川河口に浮かぶ「ガーナー森(むい)」があった。パネルは当時のガーナー森の様子を写した写真で、近くにある漫湖水鳥・湿地センター(豊見城市)に寄贈された。施設内で展示されることになっている。
能登の海は1998年に開店した。店名は、オーナーの上原盛之さん(64)が石川県の和倉温泉を訪れた際、旅館のお品書きに記された「能登の海」の4文字に一目ぼれし、そのまま採用したことに由来する。
ガーナー森は店舗の裏側に位置し、かつては水辺にぽっかりと浮かぶように存在していた。その形状から「クジラ山」などと呼ばれて親しまれた。「小さい頃は辺りが沼地のようで、泳いで泥だらけになった記憶がある」と上原さん。一帯は50年代に埋め立てられ、米軍から重機の払い下げを受けた上原さんの父・盛功さん=2007年に死去=も事業に関わった。
写真は開店から数年後に利用客から上原さんに提供されたもので、1枚は小島のように浮かぶガーナー森を捉え、もう1枚は埋め立て直後の陸地化された周辺の様子を写している。在りし日を懐かしむ常連客は多く、パネルにして店内で飾っていた。
店は役所や自衛隊、企業など100人以上の団体客も受け入れてきたが、新型コロナの影響で昨年2月からは客が激減。惜しまれつつ今年3月に店をたたんだ。写真は地域住民を通じ、昔の漫湖について聞き取りを続ける漫湖水鳥・湿地センターへの寄贈が決まった。
上原さんは「ガーナー森という身近な歴史を知る一つの資料にしてほしい」と語り、同センターの池村浩明主査(38)は「常連客だった皆さんにも引き続き見に来てほしいし、地域の人が自然環境を未来に伝える懸け橋としても活用していきたい」と話した。
(當山幸都)