<書評>『尖閣諸島盛衰記 なぜ突如、古賀村は消え失せた?』栄枯盛衰の軌跡たどる


社会
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『尖閣諸島盛衰記 なぜ突如、古賀村は消え失せた?』尖閣諸島文献資料編纂会・頒価1500円 尖閣諸島文献資料編纂会

 尖閣諸島については近年、多くの著書や論文が出て、ある程度の学問的蓄積もある。しかし、その多くが政治、領土、軍事問題で、中国脅威論、日米中の軍事的緊張が高まればその傾向はますます強まるだろう。

 そんな、きな臭い問題を、視点を変えて風土を論じたのが本書である。魚釣島・南小島篇、久場島篇で構成されているが、尖閣象徴、古賀村はなぜ突如消え失せたのかが主題だ。

 尖閣諸島は、沖縄県から地理的に遠く、琉球王府時代にはどの間切りにも属していない。琉球処分後、日本が近代国家を形成して行く過程で清国との対立・日清戦争勝利、無地主先占権というアジアとはなじみのない国際法で日本の領土に編入した。その尖閣諸島を古賀辰四郎が開拓し、彼の名を冠して古賀村と称した。

 古賀村では、初期にアホウ鳥などの羽毛を採取、海産物採集のちにかつお節工場などが建ち、一時期は、200人余の人たちでにぎわった。ところが、繁栄を極めていた古賀村が大正元(1912)年に突如廃村となった。なぜ、古賀村はこつぜんと姿を消したのか。本書は(1)地震(2)高波・高潮(3)台風―など天変地異の面から謎について検討する。

 地震説は可能性が薄いとして否定。そして、大正元年8月28日、尖閣諸島に接近した台風が大きな被害をもたらし古賀村を廃村に追い込んだ要因のひとつにあげている。また、山頂から吹き下ろす風、山裾からの巻風が古賀村を背後や脇から襲い、竜巻が巻き起こり、一瞬にして建物を吹き飛ばしたのではとも推測している。高波や高潮については台風のもたらす風力、風向、地形等の条件をもとにシミュレーションによる検証を訴えている。それも必要だろう。しかし、孤島の断崖を打つ魔声や台風で茅葺屋根を吹き飛ばされ、闇の中にうずくまる〈出稼ぎ者〉たちの恐怖感もあげられるだろう。目と鼻の先にある大都市台湾の存在も要因の一つだろう。ぜひ検証してほしい。

 本書は貴重な資料や提言、写真を通して尖閣諸島、古賀村、古賀辰四郎の栄枯盛衰をたどることができる。

 (大田静男・八重山郷土史家)


 尖閣諸島文献資料編纂会 沖縄県下に埋もれている尖閣諸島資料の発掘、収集調査、整理保存、情報発信を目的に結成された有志の学術的団体。「尖閣諸島写真資料集」などの調査成果物がある。