<書評>『随筆と水彩画 よみがえる沖縄風景詩』 互いに響き合う絵と言葉


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『随筆と水彩画 よみがえる沖縄風景詩』ローゼル川田著 コールサック社・1980円

 よみがえる沖縄風景詩というタイトルは想像力をかき立てる。本書は、エッセイストであり俳句集や詩集も出版されているローゼル川田さんが長年にわたり新聞などに連載した「随筆と水彩」の中からえりすぐりの28点で構成されている。

 横長のページをめくると見覚えのある風景に出会った。懐かしい那覇タワーが描かれていた。随筆のタイトルは「変貌する街のシンボル―那覇タワー幻想」。同じようなタッチで描かれた数ページには「闇市が発展 迷宮都市に―第一牧志公設市場」「激動見守った観光拠点―沖縄ホテル」などがあり、建物の輪郭をリズム感よく細い線で巧みに描き、透明水彩の特色を生かした色彩とその筆さばきがまた潔い。建築家でもある著者らしいスタイルだといえる。

 表紙に採用されている歴史上の人物描写には時代を生きた先達への温かいまなざしが感じられる。また、久高島や八重山の風景描写、島々を取材して描かれた絵などは情緒的でとても穏やかだ。「ガマで惹(ひ)かれ合う男女―真栄里の海やから」というページに戸川純の海やからが登場する。著者独特のイメージの跳躍と時間の流れが相まってあたかもひとつの楽曲のようだ。

 「無意識化された風景を掬(すく)い上げる」「いにしえは未来でもある」「描かれた水彩画の言葉ではなく、言葉のための水彩画でもなく」とあとがきにある。単独の水彩画集でも随筆集でもなく絵と言葉は互いに響き合い詩的な世界を作り上げている。

 記憶の中の風景や日に日に失われて行く風景を描き言葉を紡ぐことは、個人のタイムラインに刻む行為でもあるが、同時代を生きる者として共有されうるものでもある。

 誰もが願う平和への思い、沖縄の歴史的背景、時代に抗(あらが)いながらも失われていく風景。立ち止まって考える余裕さえなく日々生きている私たちに、そしてコロナ禍で移動や旅行の自由も奪われてしまった現在、居ながらにして現在・過去・未来へ思いをはせる旅へ誘ってくれる玉手箱のような一冊だ。

 (石垣克子・画家)


 ろーぜる・かわた 那覇市生まれ。1971年大学卒業後、関西の建築アトリエに勤務。復帰後帰沖、設計アトリエを主宰。著書に「琉球風画帖―夢うつつ」、詩集「廃墟の風」など。