【記者解説】新沖縄振興 自民が主導、制度主体の沖縄県の関与排除浮き彫りに


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 玉城デニー知事は6月以降、新たな沖縄振興計画素案の説明などのため、自民党沖縄振興調査会への出席を長らく求めていたが、5日のオンライン要請で、ようやく実現した。だが調査会は玉城知事の出席前の4日、既に新たな沖縄振興に対する自民党としての提言を政府に提出している。知事の要望に対し、小渕優子会長は「協力できることはしていく」と述べたが、県の要望や沖縄の実情をくみ取る姿勢が欠如しているとの指摘も県内から上がる。

 調査会提言では「現行法の基本的枠組みをベース」にすると明記した。現行の沖縄振興特別措置法では振計の策定主体は県だ。だが、これまで調査会が提言作成に向けて意見聴取したのは保守系首長や経済関係者が中心で、知事は5月に一度、調査会に出席が認められただけだった。

 調査会による政府提言は事実上、新たな沖縄振興策に向けた国会議論のたたき台となる。県の出席を軽視する調査会の審査状況からは、県の関与を排して新振計の策定を進めようとする意図も浮かび上がる。

 ただ、知事もこの間、振計の議論に、国側からは自ら関わろうとする意思表示も薄かったとの指摘も上がっている。新型コロナウイルスの猛威にあえぎ、上京すらも容易に行えない事情もある。だが10年前の現振計制定時の仲井真弘多県政は、交渉相手は相対する民主党政権で、しかも東日本大震災下だった。それでも県が先導して県内各自治体、業界を引っ張って要請活動を精力的に展開した。

 振計制定に携わった歴代県政は基地問題を背景として、時には政府や国政与党と厳しい政治折衝を繰り広げてきた。今回一連の自民の攻勢に対して玉城知事の「闘う姿勢」が見られなかったとして、県政与党からも失望の声が漏れる。

 県の意見が十分に反映されないまま政府与党の提言が策定された中、新たな振興計画で描く沖縄の姿が、多くの県民の願うものになるのかは疑問が残る。夏の概算要求、予算策定に向けた折衝で、県の実情を国に届ける知事の手腕も問われている。
 (梅田正覚)