畳に上がる前、師弟が顔を突き合わせた。いつものように互いに一礼し、引き締まった表情の喜友名が試合場に上がる。そこに言葉はなかった。「お互い目を見れば分かり合える」と深い信頼でつながる師匠の佐久本嗣男氏。圧倒的な強さで頂点に立った喜友名の演武について「満点を付けたい。非常に気持ちが入っていた」と満足そうに目尻を下げた。
喜友名が中学3年の頃から指導を続け、15年以上の時を共にしてきた。「彼のひたむきさが金につながった。努力の天才。手抜きをしない」と手放しでたたえる。喜友名の母紀江さんとは自身も「絶対に優勝させる」と約束していた。「本当に親孝行者」と万感の思いだった。
試合前、喜友名に「勝ち負けも大事かもしれないけど、武道の心を伝えたい」と語っていたという。最後まで礼節を大事にする姿に「礼に始まり礼に終わる。模範を示したと感じた」とうなずく。
演武について「満点」とは言うが「まだ鍛錬の域」と感じる部分もあるという。「空手の表現はもっと奥が深い。喜友名を評価するのは30年後くらい」とさらなる進化を求める。
自身は1964年の東京五輪で聖火ランナーの大役を務めた。あれから57年。東京で再び五輪が開かれることは容易に想像できなかった。「73歳になって大きなプレゼントをもらった。心置きなく沖縄に帰りたい」と破顔した。
(長嶺真輝)