<書評>『沖縄初期県政の政治と社会』 統治の変遷 詳細に描く


社会
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『沖縄初期県政の政治と社会』前田勇樹著 榕樹書林・8800円

 新進気鋭の沖縄近代史研究者が、1879年の琉球併合後の沖縄「初期県政」について論じた研究書である。初代県令の鍋島直彬(なおよし)と、第2代の上杉茂憲(もちのり)の県政を「初期県政」として時期設定した上で、この2人の県令を頂点とする当時の沖縄県の統治の在り方や、その統治政策の微妙な変遷を大胆かつ詳細に描き出そうと試みている。

 この2代の県政に共通するのは、県の長官である県令が旧大名だった「大名華族」であり、当時としては例外的な「華族県令」として多くの旧臣を帯同して沖縄に赴いたものの、ともに比較的短命に終わったことである。

 従来の研究では、沖縄県創設から1903年の「土地整理」終了までを、「旧慣諸制度」が据え置かれ、近代的改革が遅延された時代と捉えた上で、その基本政策の理由や定着の歴史を解明することに重点があった。そして上杉県政における開明的な改革志向が明治中央政府に忌避され、その上杉罷免にも関与し、第3代の県令となった岩村通俊の下で旧慣存続の路線が定着したとして、上杉と岩村の両県政の対比に注目しがちであった。

 本書を読むと、著者がこうした従来の歴史理解の更新に努力を傾注してきたことが伝わってくる。そのために、「初期県政」を華族県令の時代に短く限定し、両県政の共通性(旧藩での藩政改革やその伝統の影響、旧臣の書記官らの重要な役割)や両県令の個性などについて、いわば細密画を描くように事細かな論述が試論的に提示されている。

 また近年の研究上の進展として、「旧慣」を土地・租税・地方役人(および金禄制度)の諸制度に限定するのではなく、それら以外のさまざまな伝統や習俗を含め広義に解釈する流れが出てきたとして、本書でもかかる広義の「旧慣」概念が踏襲されている。

 以上のような時期設定や旧慣概念によって、初期県政期の「政治と社会」を描き直そうとの創意工夫は多としたいが、他方で、枝葉にこだわるあまり、「旧慣」の根幹(上記の諸制度)の論究と、それ故に当時の「社会」の解明が手薄なままの印象は否み難い。

 (波平恒男・琉球大名誉教授)


 まえだ・ゆうき 1990年福岡県生まれ。琉球大付属図書館職員。沖縄国際大非常勤講師。琉球大大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。学術博士。