<書評>『米国民政府軍事法廷に立つ瀬長亀次郎 沖縄人民党事件』 法廷のやりとり、詳細に


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『米国民政府軍事法廷に立つ瀬長亀次郎 沖縄人民党事件』森川恭剛著 インパクト出版会・3300円

 占領下の軍事法廷の記録という、きわめて取り扱いが難しい資料が、本書によって広く読まれるようになったことの意義は非常に大きい。巻末に控えめに収録されている著者の「解題」は、本書の成り立ちを知るうえで必読であり、復帰時点でUSCARから借り受けた膨大な文書を複写した「琉球大学戦後資料収集委員会」によって残された成果が、本書によって日の目を見るまでの経緯を知ることができる。

 自らが裁かれた軍事法廷において瀬長亀次郎は、「もし私の質問が許されず、私の意図が阻まれるとしても、将来的にはそれは公衆の知るところとなると確信する」と発言しているが(本書161ページ)、まさに本書は、そこで語られていた「将来」を引き継いでいる。そしてそれを可能にしたのは、「琉球大学戦後資料収集委員会」に加わった法学者から著者へと渡されたバトンであった。

 本書の大半は、1954年7月から10月にかけて展開された人民党事件(米軍による弾圧事件)に関する軍事法廷の資料集となっている。同事件は、奄美出身の党員に対して米軍が域外退去を命じたことに端を発しており、瀬長と又吉一郎の裁判では、その党員の隠匿を指示した容疑についての真偽が争われている。その裁判の実情については、瀬長自身の文章によって知られていたことも多いが、本書に収録された一連の記録が加わることによって、法廷でのやりとりを詳しく確認することが可能になった。

 それに加えて興味深いのは、瀬長の逮捕を知った関係者が、その一報を伝えるため街頭にポスターを貼ってまわり、その行為が「騒乱」を企図した「共謀」に当たるとして軍事法廷で裁かれた際の記録である。そこで複数の被告人によっていきいきと語られている情景は、当時の人民党を支えていたであろう草の根の支持を想像させるものであり、米軍の弾圧策が結局のところ失敗に帰した背景を考えるうえでも、ひきつけられる記録である。

 (鳥山淳・琉球大学島嶼地域科学研究所教授)


 もりかわ・やすたか 1966年愛知県生まれ、琉球大人文社会学部教授。専門は刑法とハンセン病差別問題。著書に「ハンセン病と平等の法論」「性暴力の罪の行為と類型」など。