<琉球料理は沖縄の宝 安次富順子>6 歴史伝える重箱料理 清明、旧盆…継承に役割


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この重箱は大焼香(ウフウスーコー)のものでお盆には結び昆布を使います

 世界中のどの国、どの地方にも独特の年中行事があります。沖縄でも、旧盆や清明祭(シーミー)など祖先崇拝行事や農耕行事、その他多彩な行事がありますが、時代の流れとともに生活様式が変化し、本来の行事の意義やその重要度が薄れつつあります。祖先崇拝行事における重箱料理については、沖縄県の2017年度沖縄食文化実態調査で、継承した方がよい考える人が8割近くいるという結果があります。

<年中行事と食べ物>

大巻餅

 祖先崇拝の思想の強い沖縄で、これらの行事における重箱料理とどう向き合うのかが、今後の課題と言えましょう。

 沖縄の年中行事で用いられた多くの料理が、琉球料理の維持に果たした役割は大きいものがあります。年中行事の大きなものに、祖先祭祀である十六日祭(ジュールクニチー)、清明祭、旧盆が挙げられます。中でも今年は8月20日から始まる旧盆は重要視されています。旧盆一週間前の七月七日は七夕(たなばた)ですが、県外で見られる星祭りとは違い、旧盆に先立ちご先祖さまをお迎えするためにお墓の清掃をして花、菓子、果物を供えます。続いて旧暦7月13日から3日間のお盆が始まります。この3日間、ご馳走やお供え物をしてご先祖さまをもてなします。豚肉をはじめ、料理の食材のほか、お供え物の果物や菓子を求める客で市場やスーパーは非常ににぎわいます。

 また葉つき生姜(しょうが)、サトウキビ(杖)、メドハギ(精霊箸(ソーローハーシ))、ガンシナ(果物などを安定させる丸い輪)など日頃見かけない品々も並びます。

 地域で違いも

フチャギ

お盆の迎え方には地方、家庭によって違いがありますが、首里、那覇の一般的な料理の準備を紹介しましょう。

 十三日(ウンケー)の夕ご飯はウンケージューシーとみそ汁、ナマスです。ウンケージューシーは、厄よけに生姜の葉(または生姜)を入れた香りのよい炊き込みご飯です。十四日(ナカヌヒ)、十五日(ウークイ)の朝は、おかゆにお汁、ナマス、昼は冷やぞうめん、おやつに砂糖団子(サーターダーグ)、十四日の夜は煮物にお汁、ナマスです。

 ウークイの夕ご飯は御三味(ウサンミ)を作ります。御三味は、別名重箱料理ともいわれ、法事などにも用いられています。中国起源の神仏への供物である三牲(豚、鶏、魚)が伝えられたものが基になっています。

 重箱の一箱には皮付き豚三枚肉、かまぼこ、昆布のほか天ぷらや煮しめなどを七品または九品を盛り、もう一箱にはお餅を盛ります。重箱でなく大皿盛りにすることもあります。

ポーポーとチンピン

 3日間のご先祖さまのおもてなしが終わり、お送りする際には、お供え物をお土産にし、あの世のお金の打紙(ウチカビ)をたき、クワズイモの葉に包んだミンヌク(施餓鬼のための食べ物)も準備します。昔の記録によると、お盆のお供えに、立花ボウル、大巻餅(ウーマチムチ)(揚げ菓子)、クーリジシ(豚肉と野菜のせん切りの澄まし汁を卵でとじ、かぶせたもの)などが作られていました。現在は、それらはほとんど姿を消していますが、おいしく、今にも通用するものです。

 お盆のほかの祖先祭祀である十六日祭は、「後世(グソー)の正月(ソーグヮチ)」と言われ、御三味などを作ります。清明祭は、二十四節季の清明の節(4月5日頃から二週間)に、親戚縁者が墓前に集い、祖先供養をする祭りで、御三味などをお供えします。時代の変化に伴い、オードーブルなどを供える人も出てきています。

 季節に応じた食文化

 その他の年中行事とそれにまつわる食べ物に触れてみたいと思います。

 正月(ソーグヮチ) 元々、鏡餅、おせち料理、雑煮を作る風習はなく、肉汁や四ツ献(ユチグン)(白飯、澄し汁、大煮(ウーニー)、酢の物)などが作られました。また、その年の初めての干支の日に、生年祝いとして祝っていました。

 三月三日(サングヮチサンニチ)(浜下り(はまうり)) 昔は女性には自由がなく、この日は唯一自由を満喫できる日で、華やかで豪華な重箱料理などを作り、楽しみました。

 五月四日(ユッカヌヒー) ポーポー(写真奥)、チンビン(写真手前)を作り、各地でハーリー(爬龍船競漕)が行われます。

 五月五日(グングヮチグンニチ) アマガシを作ります。こいのぼりや節句人形を飾る習慣はありませんでした。

 八月十五日 中秋の名月で、楕円形の餅に小豆をまぶした吹上餅(フチャギ)を作ります。

 冬至(トゥンジー) 新暦の冬至の日に田芋を入れたジューシー(炊き込みごはん)を作ります。

 十二月八日 サンニン(月桃)や蒲葵(クバ)の葉に包んだ鬼餅(ムーチー)を作ります。

 大晦日(トゥシヌユール) 昔は年末に屠殺(とさつ)し血イリチーやその他の豚肉料理を作りました。また、肉は塩漬けに、脂身はラードをとって保存しました。また、1970年頃から、沖縄そばで年越しする習慣が生まれています。

 (琉球料理保存協会理事長)
 


 安次富順子(あしとみ・じゅんこ)

 那覇高校、女子栄養大学家政学部卒。1966年~2016年まで新島料理学院、沖縄調理師専門学校(校長)勤務。沖縄伝統ブクブクー茶保存会会長。主な著書に「ブクブクー茶」「琉球王朝の料理と食文化」「琉球菓子」など。


~~ウチャワキ~~

共食文化と絆

 清明祭、お盆、法事その他の祭祀などに料理を供物としてささげ、その後皆で共に食べるという共食文化が昔から受け継がれています。また、沖縄特有の祖先崇拝の行事における御三味(重箱料理)などの料理が、現世の人はもとより、ご先祖様との絆をも深めています。

 時代の変化とともに、行事の在り方にも変化が生じつつあり、先人の守ってきた伝統の行事や料理は薄れつつあります。沖縄には独特の共食文化があり、伝統的な料理があることを忘れないでほしいと思います。