文部科学省は8月31日、小学6年生と中学3年生の全児童生徒を対象に5月に実施した2021年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2年ぶりの実施となった。学力テストで県内の小学生は、国語と算数の両科目の正答率で全国水準を維持した。中学生は全国平均との差を縮めた。県の小中学校は6年連続で全国最下位だったことから「最下位脱出」を目指し、「学力向上」を至上命令としてきた経緯がある。しかし近年の都道府県別平均正答率を見ると、ほとんど差はない。児童生徒と学校に対する学習状況調査では、新型コロナの影響による学校の臨時休業などで生活リズムの乱れや勉強への不安が高まったことも浮き彫りとなった。学力テストの結果などを分析する。
2007年に始まった全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)。児童生徒の学力を把握し、学校現場の指導改善につなげることが目的であるが、沖縄の小中学生は過去に6年連続最下位だったことで、一部の学校では子どもや教職員が疲弊するほどの学力向上対策が取られた経緯がある。学力テストの実施前、結果の公表時期になると「また対策に追われるのでは」と、教員や保護者からため息交じりの声も漏れ聞こえる。
■後悔
「クラスの男の子が円形脱毛症になった。補習中、プリントを見詰めながら両手で髪の毛をむしっていた」。2019年に本島南部で小学6年生を担任していた40代の男性教諭は、当時を振り返った。男性教諭の学校では学力テスト前、保護者らの協力を得て、朝と放課後にプリントを用いた対策が行われた。「とにかく量をこなすという対策だった。ほとんどの大人が採点で手いっぱいだった。勉強が苦手な子は解けずに苦しんでいた。学力向上に逆行していた」と後悔した。
中部の中学校に勤務する男性教諭(35)は、「今年は学力テストの在り方を見直すとてもいい時期になる」と捉えている。新型コロナがまん延し、感染対策に追われる中で、テスト対策をする時間がなかった。「ひどい結果が出るかもしれない。でも本来、テストは子どもの現在の力を明らかにし、教師が指導の在り方を見直すためにあるはずだ。年に1回のテストのために右往左往するのはおかしい」と話した。
中部の小学校に勤務する女性教諭(36)は、「沖縄の教育環境が考慮されていない」と指摘する。「(学習用品の購入を補助する)就学援助受給者の多さに驚くことが多い。クラスの約半数の世帯が受給していたケースが何度かあった。子どもたちが安心して勉強できる環境づくりが最優先ではないのか」と話した。
■劣等感
「競争することは大事だ。批判的な意見もあるが、学力テストは順位を出すべきだ」と話したのは、本島南部の40代小学校教諭の男性。「子どもたちはこの先、受験や就職試験、社会人として働くときに県外の人たちと戦うことがある。その時になって『やっぱり勉強しとけばよかった』と子どもに思ってほしくない」と話し、子どもの関心意欲を高める授業の工夫が必要とした。
中学3年生の息子を持つ母親(41)は、「順位付けが学ぶ意欲につながる子どももいる」と指摘した。「私の息子は、席次を上げることが楽しみの一つになっている。同じように感じている子どもは絶対にいるはず。全ての子どもたちに同じレベルの対策を強要するから学力テストが問題になる。ある程度の競争は必要だ」と話した。
<用語>全国学力テスト
正式名称は「全国学力・学習状況調査」。児童生徒の学力を把握して学校現場の指導改善につなげることを目的に2007年度に始まり、小6と中3の全員が対象。国語と算数・数学の2教科が基本で、3年に1度は小中とも理科が加わり、中3は英語を同程度の頻度で実施する。児童生徒や学校に学習意欲や生活習慣、指導上の工夫などを尋ねる質問調査もしている。21年度は例年より1カ月遅い5月27日に実施し、結果の集計対象は、小学校が1万9038校の100万5600人、中学校が9680校の93万2995人。