島の旋律、音楽史に刻む 1年越しの開催に観客を魅了 琉球交響楽団・特別演奏会


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「沖縄交響歳時記」を演奏する琉球交響楽団の団員=8月28日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール大ホール

 「琉球交響楽団 特別演奏会」が8月28日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール大ホールで開催された。大友直人の指揮で、県内ステージ初演の「沖縄交響歳時記」と、ピアニスト清水和音(かずね)を招いてのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18」などを演奏した。公演は当初2020年4月開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて延期し、1年越しの開催となった。観客は、20世紀初めに生まれた名曲と、沖縄の音楽史に新たな一ページを刻んだ新曲を楽しみ、エネルギッシュな演奏に心を振るわせた。

 「沖縄交響歳時記」(萩森英明作曲)は、3月に迎えた琉球交響楽団設立20年に合わせて制作したアルバムに収録された、全6楽章、演奏時間約50分の記念作品。第1楽章「新年」は、琉球古典音楽「かぎやで風」のメロディーを基調にオーケストラが優雅な旋律を重ねた。後半の「馬舞者」は、西洋楽器と鈴の音が合わさり、クリスマスソングのように会場に響き渡った。第2楽章「春」は、管楽器が「谷茶前」のメロディーを歌うように軽快に響かせ、弦の調べは風を感じさせる。観客は目を細めて、演奏に身を委ねた。

ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18」を演奏するピアニストの清水和音(前列左)ら

 第3楽章の「夏」は、「仲順流り」や「唐船ドーイ」などエイサーの曲が演奏された。心踊らせる三板(さんば)や打楽器の音色、後半に向けて疾走感を増していく演奏は、実際にはいなくても、舞台を飛び跳ねて太鼓を打ち鳴らす踊り手の姿を想起させた。観客の興奮を表すように、楽章が終わると客席から拍手が湧いた。

 第4楽章「秋」は「花ぬ風車」などを、元の楽曲が持つ幸福感に満ちた作品性を引き出しながら、おだやかに展開した。第5楽章「冬」はかつてないほど情緒的にアレンジされた「てぃんさぐぬ花」が観客の心を打った。第6楽章「カチャーシー」は、カチャーシーで使われる曲で盛り上げ、最後は短いフレーズの「かぎやで風」で荘厳(そうごん)に締めくくった。観客は、調和の取れた楽団員の演奏と沖縄の春夏秋冬をたくみに描いた作品への感動を隠さず、約10分間にわたり拍手を送り続けた。

 清水は、圧巻の演奏でラフマニノフの曲を表現し、アンコールに応えてリストの「ペトラルカのソネット104番」を披露した。

 大友は「日本の音楽界を背負う清水さんに来ていただきありがたかった。琉球交響楽団が音楽関係者に注目され、応援される楽団になっていると実感した。演奏中は、観客が真剣に、楽しんで音楽を聞いている空気を背中で感じていた」と感謝した。そして「演奏後は団員も満足感に満ちていた。沖縄交響歳時記は沖縄の観客にずっと聞いてもらいたかった。何度も延期になった分、練習を重ね、同曲は楽団のおはこになったと思う。ベートーベンの第九のように、毎年演奏されるような定番の作品にしていきたい」と意欲を語った。
 (藤村謙吾)