<書評>『日本語を学ぶ中国の若者たち』 学び合う授業の楽しさ


社会
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『日本語を学ぶ中国の若者たち』横山芳春著 ボーダーインク・1320円

 「雪あたたかくとけにけり しとしとしとと とけゆけり……」。室生犀星の詩「ふるさと」の一節である。

 「『雪があたたかい』というのは、物理的には『温かい』が正しいですね」と工学博士らしい説明をするが、受講している若者たちは、その意味をとりかねているようである。「温かい」と「暖かい」は、確かに日本人でもその違いをきちんと説明するのは難しい。その上、著者は「私も雪があたたかいというのは理解できないです」などと言っている。

 こうした記録を読むと、日本の高校の教室で行われている国語の授業のような気がしてくるのだが、実は違う。これは、中国でのれっきとした日本語教室での授業の一コマである。したがって、受講しているのは、すべて日本語を学ぶ中国の若者である。

 そこでは室生犀星や松尾芭蕉、まどみちおなど、日本の詩人、俳人、歌人などの作品が教材として用いられる。そして、驚かされるのは、受けている中国の若者も、授業をしている著者も、実に楽しそうなのである。これは一体どうしたことだろうか。

 著者は、もとは那覇市役所のゼロエミッション対策室で環境問題のプロフェッショナルとして働いていたが、教育の世界に魅力を感じて、県内の小学校で校長を務めた。その中で斎藤喜博という教師の存在を知り、授業の世界について猛勉強する。そして現在は、日本語教師として中国の若者に日本語を教えているのである。

 では、なぜ、著者は日本語の「詩」などの作品を教材にして日本語教育をしようとしたのか。

 謎解きは本書に譲るとして、特長を一言で言うとすれば、「授業はおもしろい」ということである。ただ単に教師が知識を与えるだけの授業ではなく、学習者と心を開いて、互いに学び合う授業は、本当に楽しい。

 本書は、そうした本来の、学校の姿や意義を教えてくれる好著である。

 (狩野浩二・十文字学園女子大教授)


 よこやま・よしはる 1954年福岡県出身。琉球大工学博士。那覇市役所勤務後、沖縄県民間人等出身の校長として10年勤める。現在中国福建省で日本語教師。著書に「体当たり校長の学校づくり」など。