<書評>『沖縄怪異譚大全 いにしえからの都市伝説』 膨大な沖縄の怪異文化を紹介


社会
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『沖縄怪異譚大全 いにしえからの都市伝説』小原猛著 ボーダーインク・1870円

 どうしてかわれわれは怖い話や不思議な話、怪異譚が大好きだ。恐怖におののきながら楽しむという不思議。これこそが怪異ともいえる。最近ではネット動画でも人気のコンテンツとなっている。2000年代以降、全国的に怪談イベントも花盛りで、語り部のコンテストまで開かれている。合わせて地域文化の特性を表すものとして注目されつつある。わが沖縄も。

 夏になると全国のメディアでも必ず番組が放送され人気がある。特に沖縄は怪異譚が好きな地域性を持つと思うのだ。というのも、どの地域も必ず怪異伝承がある。複数地で共通する説話もあったりもするが、琉球の時代から重ねてきたそれは、膨大な口承文学のデータベースともいえる。これらに加えて、王国時代の史書、あるいは文字になっていないレベルの現代都市伝説まで含めると、こんなに多い地域はほかにないのではと思う。そうした膨大な沖縄の怪異文化を紹介しているのが本書だ。

 目利きによって、厳選されている。著者の小原猛氏は、さながらソムリエのようだ。われわれのテーブルに立ち、客に合わせて丁寧に解説をまじえながら、沖縄各地の怪異、史書、自身の聞き取りから、珠玉のラインアップを紹介している。年代モノから若い話までがグラスに注がれ、味とウンチクに酔いしれる、そんな本だ。怪異譚でありながら、シマの生活史までも堪能できるように構成されている。すでに消えた生業や、その道具、自然観、ライフスタイルなど。われわれウチナーンチュも、県外の人も老若男女が味わえるようになっているので、この辺も意識しながら目利きのオススメを楽しんでほしい。

 最初の問いに戻りたい。どうして怪異が楽しいのか? 「虚構、すなわち架空の事物について語る能力こそが、ホモ・サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている」と、ユヴァル・ハラリ氏は『サピエンス全史』で書いた。虚構を語り、楽しむ能力が島の文化を分厚くしてきたともいえるだろう。島の怪異譚は信仰であり、コミュニティーの規律であり、エンターテインメントだと再確認ができる一冊だ。

 (賀数仁然・琉球歴史研究家)


 こはら・たけし 1968年京都府生まれ、作家。カメラマン、ライターとして活動したのち沖縄移住。著書に「琉球怪談」「琉球妖怪大図鑑」、本紙連載で「ふしぎうちなーショートショート」など。