本書は「沖縄を詠む」にこだわり、その序文で「沖縄の皆様への感謝の思いと沖縄をよく知らない本土の方達にももう少し沖縄のことを知ってほしいとの思いでまとめました」と述べている。また平成20年度俳人協会全国俳句大会で秀逸賞と鷹羽狩行特選賞を受賞した句「不発弾残る島なり青き踏む」より句集の題を「青き踏む」にしている。
これについて著者は「不発弾に表される戦後の苦しみすべてに負けない沖縄の強い前向きの力を分かっていただけたことが嬉しく、句集の題といたしました」と述べている。収録された俳句も沖縄の現実に真摯に向き合い、力のある表現力で詠まれた句が多い。
花菜道その果てにある自決壕
天啓を乞ふ春荒れの基地の島
居座り続ける基地に胸を痛める著者は「ジュゴン哭く壊されていく春の海」「この国の未来危ぶみ守宮鳴く」と憂う。
著者はまた離島への旅が好きで、人の住む離島はすべて巡られている。
島蜥蜴(とかげ)迎えの舟を待つ真昼
八月踊り樹下に子役の化粧かな
色変へぬ松や孤島の軌道跡
出会った土地での一句一句に著者の豊かな詩心が感じられる。鳥や虫たちの句にも魅了される。
篦鷺(へらさぎ)と冬めく刻を分かちけり
笹鳴きや王府古道の一里塚
飛蝗(ばった)跳ぶ一歩に風の生まれけり
これらの句の小さきものへのまなざしは暖かく優しく寄り添う。
鷹渡る二つの海の逢ふ岬
蔡温の松亭亭と辺戸の秋
大東島海の底より秋の虹
著者の確かな句眼で詠んだ句。高くそびえた蔡温松や二つの海の逢う岬や秋の虹も眼前に立ち上がり美しい。
句文集としてあるように、四季折々の文は、それぞれ「沖縄の季節感」「生きている旧暦」敗戦を想う」「島々を巡る」「初心も頃の俳句」と大いに啓発される内容で、沖縄への愛を感じさせる。句集の表紙も著者の好きな青空が美しい。お薦めの句文集である。
(前原啓子・県俳句協会会員、遠藤石村賞受賞者)
いしだ・けいこ 1935年東京都生まれ。76年、俳句同人「風花」に入門、後継誌「今日の花」で活動を続け、現在今日の花会会長。俳人協会沖縄県支部幹事など務める。95年、句集「きびの花」刊行。