【本部】本部町東に暮らす92歳の松田正弘さんは、町内の闘牛大会で審判を務める。闘牛に関わることが元気の秘訣だ。まっすぐな背筋と丈夫な足腰は、日課である牛小屋の掃除や、えさの草刈りで培った。ウシカラヤー(牛飼い)の家に生まれ、20代で闘牛の牛主になった。これまで育てた闘牛は40頭を超え、県闘牛組合連合会から功労賞を授与された。「草刈りもきついけど、それでも続けるよ。牛が好きだから」。闘牛への愛は尽きない。
常に牛に囲まれている生活だった。自宅の周囲100メートル以内では5、6頭の闘牛が飼われていた。20代前半で本島中部の米軍基地で働き始めた時も、毎週末に闘牛大会を見るため各地に出掛けた。「娯楽がなかったのもあるが、そのうち育ててみたいという気持ちが大きくなった」
初めて飼ったのは20代半ば。石川(うるま市)の伊波の伊波さんから譲り受けたことから、「伊波トガイ」と名付けた。デビュー戦では、松田さん自身もボクシングのセコンドのような役割をする勢子として土俵に上がった。「運動神経が悪すぎて、(牛に)踏まれるかと思った」。それ以降は飼育一筋だ。
これまで、花形牛となった「黒島1号」や「突撃ボーイズ」など、数々の牛を育てた。約70年のキャリアだが、試合の大小に関わらず、取り組み前には決まって腹を下す。「緊張してるんだろうね」と笑った。2016年には主に孫の倫さん(29)が世話する「清風王道」が全島闘牛大会の軽量級チャンピオンに輝いた。「何とも言えないほどうれしかったよ」
ことし3月には本部闘牛組合が主催する闘牛大会で審判を務めた。「断っているんだけど、やめさせてもらえなくて」
家では世代の垣根を越えて、孫やひ孫とも闘牛の会話に花が咲く。それが何よりも楽しみだ。「これからも健康で、コロナが収まれば、また試合も見に行きたいね」と語った。
(新垣若菜)