玉城デニー知事は10月4日で就任3年を迎える。翁長雄志県政の後継として、県民から過去最多の39万票余の付託を受けた。玉城知事は291の公約を打ち出したが、達成はわずか5件にとどまる。残り任期が1年に迫る中、玉城知事の公約をテーマ別に点検し、県政の課題を探る。(梅田正覚)
10月に就任3年目を迎える玉城デニー知事が知事選で打ち出した公約291項目のうち、沖縄振興や経済政策の面で完了できたのは「那覇空港第2滑走路の早期整備」と「カジノ誘致反対」の2点だった。ただ滑走路増設は玉城県政以前から取り組んでいた事業だ。玉城知事が掲げた経済政策に関わる公約は99件あるが、自身が積極的に関わって達成した項目は見当たらない。
新型コロナウイルスの感染拡大前の2018~19年度にかけては、好調な観光がリードして県経済は活況を呈した。ホテルやマンションなどの民間投資のほか、那覇空港滑走路増設などの公共事業が拡大していた。
だが、20年度以降、コロナの感染拡大を受けて全国的に人の流れが止まると、沖縄観光は大打撃を受けた。日本復帰から50年間で築き上げてきた第3次産業に特化した産業構造のもろさが露呈した。産業の多様化が求められている。
人材育成・社会資本整備 具体的施策は不透明
玉城知事は人材育成に16項目、社会資本・産業基盤整備で11項目の公約を掲げた。完了したのは那覇空港第2滑走路増設のみ。
目玉公約の一つとして、専門家らが基地問題やSDGs(持続可能な開発目標)などの8テーマを審議し、県の施策に反映させる「万国津梁(しんりょう)会議」を設置した。「多様な人材育成」をテーマとした会議では今年3月に報告書が完成したが、提言内容は22年度以降の新たな沖縄振興計画(振計)に反映させるとした。「海外ネットワーク」のテーマは10月に報告書が提出される予定。いずれの会議の議論も具体的施策につながっているのかは見えづらい。
「女性リーダーの育成」や「男女共同参画社会の実現に県庁が率先して取り組む」ことも掲げた。玉城知事就任後、子ども生活福祉部の「平和援護・男女参画課」を「女性力・平和推進課」に名称変更し、女性を前面に押し出した。
県は20年度の女性管理職割合目標値は15・0%と掲げた。実績は14・7%で目標はほぼ達成。微増ながらも年々、女性管理職は増えている。
一方、社会資本整備の公約で掲げた「基幹バス構想」「鉄軌道導入」はほとんど進んでいない。「沖縄都市モノレールの3車両化」は国主導で導入が進む。
産業振興 雇用創出 観光偏重 弱点が浮上
観光振興と雇用創出、農林水産業振興に関する公約は72項目だが、完了したのは「カジノ誘致反対」のみだった。
公約で「観光客1200万人超、観光収入1・2兆円を目指す」と掲げていたが、新型コロナの世界的な感染拡大で、入域観光客は激減。コロナ前はオーバーツーリズムが指摘されていたこともあり、県は22年度からの新たな振計素案に「サスティナブル・ツーリズム」(持続可能な観光)の推進を掲げた。観光政策を「量から質」へ転換する。
一方、コロナ禍で観光産業に偏重した産業構造の弱点が明らかになった。県は離島県がゆえの物流コストの課題にとらわれない最先端の製造業誘致を目指し、豊見城市に細胞培養加工施設を建設しようとしたが、市議会の反対にあって頓挫した。
産業振興や雇用創出に向けて公約に「税制特区の効果的な仕組みを創設」も掲げた。だが県が22年度からの新たな沖縄振興計画の策定に向け、国に強く要望した「クリーンエネルギー導入支援制度」や「沖縄イノベーション特区」などは採用されなかった。
政府は22年度以降の沖縄振興計画を継続する方向性を示したが、鉄軌道整備などの大規模プロジェクトや新たな税制特区制度の創設には言及していない。県民生活に影響の大きいこれらの公約を任期中に進展させることができるか、玉城知事の手腕が問われている。