貧困対策は新機軸少なく 離島振興、子育て施策の達成度は?<公約点検・玉城知事就任3年>中


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 玉城デニー知事は公約で「沖縄らしいやさしい社会の構築」を打ち出し、すべての人の尊厳を守り、共生する社会づくりを目指すとしていた。特に子どもに関する施策や、離島振興は県政が取り組む「一丁目一番地」と位置付けてきたが、達成できていない項目も目立つ。

 子どもの貧困対策は推進しているものの、前県政から引き継いだ事業が多く、玉城県政による新機軸の取り組みは少ないとの指摘もある。

 一方、「琉球歴史文化の日」を制定、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録が実現するなど、文化や自然を将来に継承する取り組みは達成し、一定の成果が出ている。

 ただ、焼失した首里城の再建など、任期中に新たな課題も出てきた。残り1年の任期で、道筋をつけられるのかが問われる。
 (池田哲平)


子育て 23市町村に支援拠点

 子どもに関する施策では、玉城知事は主要政策の一つとして子育て世代包括支援センターを全市町村に設置すると掲げた。妊娠期から就学期まで対話を重ね、母子と家族をサポートするフィンランドの地域拠点「ネウボラ」を参考に、沖縄版ネウボラを全県に広げる方針だ。

 県によると、同センターは2018年から整備を推進し、現在は23市町村に設置された。本年度も久米島町と北大東村に整備を予定しているものの、目指していた「全市町村の設置」の実現は厳しい状況だ。「待機児童ゼロ」や「保育料無料化を目指す」といった公約も、実態とはかけ離れている。

 子どもの貧困対策に関し、「沖縄子どもの未来県民会議」の取り組みを推進し、行政や民間の幅広い支援体制を構築するとしていたが、この2年はコロナ禍で、民間を巻き込んだ施策展開が十分にできなかった面もあった。

 


医療・離島振興 北部基幹病院実現へ

 医療の面で掲げた「北部基幹病院の早期実現」は3月に大きな転換期を迎えた。県立北部病院と北部地区医師会病院を統合する新たな病院が、現在の農業大学校(名護市)の敷地に26年に開院することが決定。同校の移転や解体工事の円滑化に向けて、保健医療部医療政策課に「北部医療センター整備推進室」を設置し、事業を進める。

 離島振興に関し、翁長県政時代に始めた、交通コストの補助事業など、多くの施策を継続させている。次年度以降の離島振興計画で「環境」「生活環境」「観光」「人材」の面で共通の課題や特性を有する離島をグループに分け、それぞれに合わせた施策を展開する方向で検討が進んでいる。
 


自然・地域社会 「殺処分ゼロ」進まず

 玉城知事が掲げた公約の中で、大きく注目された項目の一つが「犬猫の殺処分をなくす」だった。殺処分の「ゼロ」だけではなく、制度の「廃止」を進めるとしていたが、就任からの3年間で実現していない。

 県が2月に策定した「県動物愛護管理推進計画」によると、18年の殺処分件数は898件だったが、30年には6割減の360件程度に減らす目標を掲げた。譲渡が可能な動物の殺処分はゼロにするとしている。

 県は殺処分対象の個体を減少させる活動や、譲渡機会を増やす取り組みを促進していく考えだが、公約と比較すると、やや後退した印象も否めない。

 地域社会の「安心・安全」の面で掲げたものの「着手」にとどまっているのが、消防防災ヘリの導入だ。県は25年度運用開始を目指し、導入するめどがたったとし、玉城知事は県議会答弁で「導入に向けた作業を加速化させる」と話した。市町村と連携して運用体制などを検討する考えで、今後議論が進むことになる。
 



「現場感覚、協働の視点弱い」島村聡沖大教授

島村聡沖大教授

 玉城県政の子どもの貧困対策は、前県政から引き継いできたものが多く、目新しいものはなかなか見当たらない。対策への熱量も落ちていると感じてしまう。

 人材育成の重視を打ち出すが、大学進学率が約4割で、半数以上が大学に行けないのが、いまの沖縄の姿だ。貧困問題が人材育成に大きく影響しているにも関わらず、保育や教育を受けやすい環境整備が不十分で、根元を解決しようとする視点が足りていない。

 福祉施策を進めていく上で、専門分野で優れた人を取り込んでいくことが必要だが、民間を巻き込み、横で連携する「現場感覚」や「協働力」の視点も弱い。高齢者福祉、障がい者施策でも、もっと市町村に対してリーダーシップを取ることが求められている。

 県の主導が必要なのは、福祉分野での「デジタル化」の推進だ。医師会や市町村を巻き込んで妊娠期から医療情報と福祉情報を連結し、市町村が情報を参照しながら、貧困でモチベーションが下がった家庭を発見するなど、リスクの高い子を把握できる仕組みづくりを構築してほしい。

 県内のある市は、教育情報と家庭の福祉状況を連結し、あらかじめ不登校になりそうな子どもをケアする仕組みを構築中だ。市町村事業だが、県教育委員会とつなげれば、高校生までフォローアップが可能となる。県の主導により、市町村へのリーダーシップを発揮し、民間を巻き込むことで改善できる問題は多い。

 残りの任期1年は、何をするのかをはっきりさせ、福祉施策を進展させる事業展開に期待したい。
 (社会福祉)