米軍関連の公約は「推進中」、海外事例の調査や世論喚起<公約点検・玉城知事就任3年>下


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新たにN2護岸の工事が始まった新基地建設工事現場=8月27日、名護市辺野古(小型無人機で撮影)

 玉城デニー知事は米軍基地問題で「辺野古新基地建設・オスプレイ配備反対」などを公約に掲げ、県は国を相手にした訴訟や、海外の事例調査、世論喚起などに取り組んできた。国側の対応が必要なこともあり、米軍基地関連の公約は「推進中」扱いで実現に至った事項はない。

 県内各地で進む自衛隊配備に関しては「住民合意がない自衛隊強行配備は認めない」と掲げて要請しているとして、基地問題で唯一「着手」扱いとしている。平和行政では「沖縄戦の記憶を継承し、平和を希求する沖縄のこころを世界に発信する」などを公約に掲げ、首里城地下の第32軍壕の保存・公開に関する検討を進めている。
 (塚崎昇平)


米軍基地問題 辺野古対抗、訴訟4件

 辺野古新基地建設を強行する国に対し県は訴訟などで対抗している。国が申請した大浦湾の軟弱地盤改良工事に伴う設計変更は年内にも不承認にする構えだ。

 玉城氏の就任以降、県は訴訟4件を提起した。2件が敗訴、1件が取り下げ、1件が係争中で勝訴はない。

 今年7月に敗訴が確定したサンゴ移植を巡る農相の関与取り消し訴訟で、最高裁判決で県主張を支持する反対意見も付いた。玉城知事は「県の主張が行政法の観点から合理的で正当性があると確信した」と意義を強調した。

 設計変更は、2020年4月に沖縄防衛局が県に申請した。県は意見を募る告示・縦覧や防衛局への工法や環境保全などに関する質問などで審査を続けている。11月が有力視される衆院選などもにらみつつ、判断時期を見極めている。

 「日米地位協定の抜本的見直し」も掲げる。県は、豪州やフィリピンで米国との地位協定の現地調査を続け、報告書などにまとめている。新型コロナウイルスの感染状況を踏まえつつ、韓国での調査も計画する。

 


自衛隊配備 県民負担増に懸念

 海洋進出を進める中国などを念頭に、国は南西諸島での自衛隊配備を進めている。玉城知事就任後の19年3月、防衛省は陸上自衛隊の宮古島駐屯地を設置。宮古島のほか、うるま市の勝連分屯地や建設を進める石垣駐屯地にも対艦ミサイル部隊配備を計画している。

 南西諸島での自衛隊配備強化について、玉城知事は「米軍の抑止力向上と自衛隊の装備強化が県民にはダブルの(負担)強化構造に見える。一層軍事化が進んでいると受け取られかねない」と懸念を示してきた。県議会答弁では配備自体の是非については明言せず「地元の理解と協力が得られるよう、より一層丁寧に説明を求める」との立場を取ってきた。

 一方で今年6月の宮古島駐屯地へのミサイル弾薬搬入には「スケジュールありきの搬入は住民に不安を広げるだけで、賢明なやり方ではない」と述べ、住民の安全性を重視する姿勢も見せている。

 


平和行政 遺骨土砂の確認要求

 玉城知事は公約で沖縄戦戦没者の遺骨収集について「国の責任による問題解決を基本に取り組む」としており、沖縄全戦没者追悼式の平和宣言などで繰り返し求めている。沖縄戦跡国定公園内にある糸満市米須の土砂採掘計画では5月、採掘開始前に遺骨の有無を確認することなどを求める措置命令を出した。

 那覇市の首里城地下に広がる第32軍司令部壕について今年1月に「保存・公開検討委員会」が初会合を開き、基礎調査などを進めている。一方、2020年5月、県は新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に、同年度の沖縄全戦没者追悼式を従来の平和祈念公園広場から、国立沖縄戦没者墓苑に変更すると発表した。沖縄戦研究者らから国の施設での追悼式開催は「殉国死」の肯定に結び付くと批判が上がり、県は撤回した。

 



南西シフト、代替案検討必要 星野英一氏(琉球大名誉教授)

星野 英一氏(琉球大名誉教授)

 自治体の長の仕事は住民の生活や人権、安全を守ることだ。日米安全保障条約上の米軍基地が集中する沖縄の場合、国の安全保障が住民の安全に反する事例も多い。権限の有無は別にして、県知事も安保政策に言及し、公約にするのは当然だ。

 辺野古を巡る裁判闘争では費用対効果の議論がある。より費用対効果の高い手法がない現状では、裁判闘争をやらない理由にはならない。地位協定調査も国や他の自治体を説得する材料として有用だ。

 玉城デニー知事は「オール沖縄」の候補として当選した。自衛隊は容認だが、幅広い共闘体制で知事選に勝つための人物として選ばれた。そうであっても自治体の長として、自衛隊の南西シフトが住民の生活を守る上で問題がないのか、住民の声を聞き、防衛省に説明させねばならない。代替手段があれば検討も必要だ。

 平和行政の観点では、東アジアで政治、経済、学術、文化などさまざまな分野で信頼醸成のネットワーク構築が必要だ。長期的な取り組みになるが、安保政策での代替手段を示しやすくなる。沖縄の取り組みを発信し(アジアの)ハブになる現実が見えてくると、県民の誇りにもつながる。
 (国際関係学)