【解説】沖縄の記者はどう見たか? 岸田首相の所信表明


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 岸田文雄首相は8日の所信表明演説で、米軍普天間飛行場の移設問題を巡り、自身の政治姿勢である「聞く力」を強調した。辺野古新基地建設推進など「強引」との批判を浴びた安倍晋三、菅義偉両政権の強硬姿勢との違いを鮮明にした格好だ。ただ、台頭する中国をにらみ、日米同盟や自衛隊の「南西シフト」の根幹となるミサイル防衛の強化を明言するなど、基地負担の固定化につながりかねない防衛方針も同時に示している。新政権が打ち出す融和姿勢が、県が求める実効性のある対話につながるかは不透明な状況だ。

 岸田氏は、普天間飛行場の移設問題で「丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築く」とした。菅氏が、昨年の所信表明演説で、官房長官在任中に実現した米軍北部訓練場の返還を「沖縄の本土復帰後最大の返還」と自賛したのとは対照的な態度と言える。

 一方、岸田氏はこれまでの政権と同様、外交・安全保障政策の基軸に「日米同盟」を据えた。「日米同盟をさらなる高みへ引き上げる」とも踏み込んだ。だが、日本側に不平等な内容が多い日米地位協定の見直しなど、同盟の在り方を再検証する姿勢は示していない。日米同盟強化と共に、ミサイル防衛を基軸とする「防衛力」の増強を打ち出した背景に、中国の軍事的伸長への警戒感がある。これは中国に「責任ある行動を強く求める」と明示していることからも明らかだ。

 被爆地の広島県出身者として「唯一の戦争被爆国としての責務を果たす」とも打ち出した。「核兵器のない世界」の実現に向け、外相時代の2017年に自身が発足させた、政府首脳や有識者らが核軍縮を協議する「賢人会議」の活用など具体策も示した。

 岸田政権には、日本で「唯一」の地上戦を経験した沖縄に押し付けたままの基地負担の軽減に向けた具体策の提示も求められる。

 (安里洋輔)