<書評>『沖縄戦の子どもたち』 子どものまなざしで見る戦争


社会
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『沖縄戦の子どもたち』川満彰著 吉川弘文館・1870円

 もし、子どもの時に戦争が起きたら――。著者は読者に問いかける。この提起は、子どもが戦時にどう扱われたかという視点であり、どんな戦争であったのかを見極めるリトマス紙のようなものでもある。本書は子どものまなざしで沖縄戦を直視し、「あのときの子どもたち」を「いまの私たち」に引きつけて捉えようとする試みである。

 本書でいう「子ども」とは、子どもの権利条約で定められた18歳未満の年少者である。幼児から召集年齢(17歳)に達した少年までの広がりがあり、戦争との関わりに年齢層ごとの違いも見られるが、年齢が下がれば下がるほど痛ましい仕打ちを国や社会から受けたことが読み進むにつれてわかる。

 その典型例が戦争孤児だ。

 組織的戦闘が終結後、米軍政府は沖縄本島の民間人収容地区に14の孤児院を設置した。だが、3000人とも4000人ともいわれる収容孤児の資料はほとんど残っていない。ましてや、孤児院に収容されもせず、ひとり寂しく死んだ子どもたちの姿はつかみようがない。

 1945年7月に発刊された新聞、うるま新報(後の琉球新報)に頻繁に「(孤児の)身寄りを求む」という欄が掲載されている。当時、孤児の安否確認が深刻な問題であったことがうかがえる。しかし、家族が切り裂かれ、地域のつながりも崩壊した戦後間もない沖縄社会では、孤児に寄り添うシステム構築にまで手が回らなかった。孤児には厳しい戦後の生活が待っていた。

 著者は、平和ガイドとしても活動している。戦跡や碑の前で子どもたちに戦争について丁寧に語り、「いま、皆さんが戦争に巻き込まれたら、と考えて」と促す。戦争とは「遠い昔の物語」ではない。他人ごとのように受け止めないでおこう、と説く。

 研究で明らかにした「あのとき」の子どもと同じ目にあわせたくない。子どもたちを侵略のための戦士にするべきでもない。だからこそ、基本的人権の尊重、平和主義、国民主権の憲法の再確認が「いま」の切迫した課題ではないか。本書のまとめに、著者の強い意思が現れている。

 (藤原健・本紙客員編集委員)


 かわみつ・あきら 1960年沖縄市生まれ。名護市教育委員会市史編さん係任用職員。主な著書に「陸軍中野学校と沖縄戦」「戦争孤児たちの戦後史一 総集編」(共編)などがある。