<書評>『句集 霊力の微粒子』 壮大な想像力と繊細な眼力


社会
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『句集 霊力の微粒子』おおしろ房著 コールサック社・1650円

 わが畏友おおしろ建さんの奥さん、おおしろ房さんが第二句集『霊力(せじ)の微粒子』を出版した。壮大な想像力と繊細な眼力には驚かされる。夫君を上回るほどの豊穣(ほうじょう)な作品世界だ。例えば次のような秀句があふれている。

 太平洋に足湯している紀伊半島/屋久杉の千手観音時空巻く/春雷や昏睡の母は避雷針/鰯雲女体を運ぶ密漁船/前世からドミノ倒しの春が来る

 なんともはや時間と空間を一気に飛び越えた異次元の宇宙をつかみ取った作品世界だ。外界の風景を内界に取り込み、培養した内景をリセットした言葉に託して外界に放っている。

 勝手な感慨を記せば、「太平洋」は松尾芭蕉の句「荒海や佐渡に横たふ天の川」をほうふつさせる雄大さだ。「屋久杉」は永遠の時間と対峙(たいじ)する現在の不可思議な時空間。「春雷」は自然の荘厳さと避雷針となって家族を守ってくれた母への感謝の思いが静謐(せいひつ)さの中にひそんでいる。「鰯雲」は発想の新鮮さと特異性、さらに「前世から」には覚醒した歴史認識の織りなす確固とした世界がある。いずれの句も見えないものを豊かに見る作者の慧眼(けいがん)と感性がつくりあげた世界だ。まさに「降り注ぐ霊力の微粒子」が生んだ作品群である。

 作者は俳句の種まく人として知られている野ざらし延男の薫陶を受け「天荒」俳句会同人として研さんを積まれてきたようだ。今では家族ぐるみで俳句を楽しんでいると聞く。同時に、忌憚(きたん)のない合評の場にもなっているのだろう。

 本句集は2001年から18年までの句の中から382句を選んでいる。19年以降コロナ禍の時代の俳句も興味深いが、次回の句集を楽しみにしたい。巻末には野ざらし延男の「おおしろ房作品鑑賞」と鈴木比佐雄の解説が収載されている。鑑賞には随分と役立つ構成になっている。

 句集を読みながら新鮮な驚愕(きょうがく)と同時に「俳句とはなんぞや」というラジカルな問いも喚起された。土地の精霊と対話をし自明な世界を殴打する文学の力も本句集の魅力である。

(大城貞俊・作家)


 おおしろ・ふさ 1955年沖縄市生まれ。琉球大卒。中学、高校で教諭を務め2016年定年退職。野ざらし延男氏に俳句を学び、第一句集「恐竜の歩幅」出版。20年、おきなわ文学賞俳句部門一席(県知事賞)受賞。